親不孝者と臓器売買

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親の心子知らずとはよく言ったものである。 親が子を思ってもそれが子に伝わることは稀だ。 例えば、親が子を心配しても子は子供扱いするなと憤る。 例えば、親が愛情を注ごうとも、子は道を踏み外すこともある。 例えば、親のために臓器を売るような子供もいる。 目の前の年端もいかない子供みたいに。 「…嬢ちゃん。私みたいな違法外科医に声をかけるってことがどういうことか分かってるのかい」 「はい。どうしてもお金が欲しいんです」 「…はぁ〜」 こういうのは珍しい話じゃない。勝者なき第三次世界大戦で小国は地図から消え去り大国でさえ法が機能しなくなったこの世界で、臓器売買はもはや当たり前の風景だ。だからこそ、私みたいな外科医だった人間は安寧に暮らせるのだけど。 とは言っても… 「君も知ってるだろうけど君みたいな幼い子供の臓器は比較的高価だ。世界大戦が起きた影響で今じゃどの人間もヤク漬けだ。故に健康体は希少。それでもドナーの需要が減ったわけじゃないし、むしろ増えている。臓器売買なんてしなくても暮らす分には問題ないだろう」 「私の…両親を取り戻すためにお金がいるんです…」 「へぇ。詳しく聞いても?」 そう言うと目の前の少女は不思議そうに目を丸くする 「ただの興味本位だよ。言っておくけど同情なんてしない」 実際、ただの暇つぶしだ。この世界で肉親だろうとそれを助けようとする者は少ない。みんな、それだけ生きるのに必死だとも言える。他人なんて気にかける暇はない。優しさは隙であり、この世界の住人はそれを躊躇なく裏切る。 そんな世界で肉親を取り戻したいと願う少女の経緯に興味を抱いたのだ。 「私は生まれつき体が弱くて両親はずっと何もできない私を養ってくれました。二人ともいつもフラフラで朝から夜まで働いてて…家にいないなんてことも珍しくはありませんでした。いつか、私が働けるようになったら今度は私が二人を助けるんだって…ずっとそう思っていました」 「思っていました…ってことは何かあったんだ」 「はい。私の体は良くなるどころか、どんどん悪くなっていきました。それできっと二人は私を治してくれたんだとお思います…ある日、私は二人に連れられて小屋に連れて行かれました…そこからの記憶はありません。私は家で目をしまして手元には手紙が置かれていました。 その手紙には私の体が良くなったこと…私の体を治したせいで二人が遠い場所に行ってしまったこと…いつも私を見守っているという…ことが書かれていました」 その時のことを思い出したのか少女の声には啜り泣きが混じっていた 「なるほどね。経緯は理解できたよ。けど一つ、質問させて欲しい。君の体は両親に治してもらったんだろう?その体を傷つけてまで両親を探しに行くのかい?」 「…私は二人を助けるって決めましたから。それが私にできる恩返しです」 「ふーん。親不孝者だね。まぁいいや。いいよ、君の臓器を摘出してあげる。ただし、君の臓器は私が売る。そして売上の80%を私がもらう。まぁ、これは臓器売買の相場だし、君もそれを理解しているだろう」 「はい。よろしくお願いします」 そうして私は少女を家に連れて行く。もちろん、かつての平和な時代に存在した病院のような医療施設が揃っているわけでもないプレハブ小屋だ。 臓器摘出中に死亡する患者も少なくはない。それでも、臓器売買が一般化してしまったのはこの世界の厳しさを表している言ってもいいだろう。 「君は運がいいね。たまたま麻酔薬が入ってきてるから私の暇つぶしに付き合ってくれたお礼として使ってあげるよ」 「ありがとうございます…!」 「それじゃあ、無事に施術が終わることを祈っているんだね」 そして、私は少女の細い腕に注射を打つ。 「さて…私は私の仕事をしますかね」 柄にもないことをした。それは少女も分かってるだろう。私自身、驚いた。私は人にはなりきれないようだ。
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