2連休、ごめんね

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2連休、ごめんね

 私たちはもう、慣れた関係になってしまっている。 慣れるのは当たり前で、最初と同じように感じられないのも分かっている。 それでも明らかに、私の方がまだ、その“慣れ”が足りないと思う。 「明日どこか行く?」 私の問いかけに、彼が顔を向けてくることはない。 「明日、休みなの?」 声だけの返事が返ってくる。 それも、質問で返してくる。 「うん。明日、明後日休み」 「あっ、2連休。そうなんだ」 彼は自分の好きなことだけに夢中になりたいようだ。 むしろ、私が邪魔だとさえ思っているかもしれない。 前の私は、彼にとっての夢中になりたいことの一つだったのに。 いや、夢中になりたいことの一番だったはずなのに。 「どこにも行きたくないって感じだね」 面倒臭いと思われてもいいから、嫌味っぽく言う。 「俺は家でいいよ。あ、前言ってた友達、高校の?会って来ればいいじゃん」 その発言を優しさだと思っているのなら、彼は本当に優しくない。 でも、私の方がまだ、“慣れ”が足りないから、そんな彼を手放せない。 「私も家でゆっくりしようかな」 「珍しいね」 どうして彼は、私と一緒にいるのだろう。 一人になりたがるくせに、私を手放さないのはどうしてだろう。 「なんか、ごめん」 謝れば、彼がこっちを見てくれることを、私は最近ようやく学んだ。 「なんで謝るの?」 こっちを見た彼は、少し苛立っている気がする。 それでも、私のことを見てくれたのがとにかく嬉しい。 「2連休、ごめんね」 彼は今の私の感情よりも、自分が夢中になりたいことに、早く戻りたいようだった。 「だから、なんで謝るのさ」 冗談っぽく聞こえるように、顔では微笑んでいるけれど、きっと彼は、私を鬱陶しいと感じている。 それなのに、別れを切り出さないのはどうしてだろう。 「ごめん、もう謝らない」 それを聞き、彼は頷くと、私から目を逸らす。  私は、彼の邪魔をしたくない。 だってまだ、彼よりも、“慣れ”が足りていないから。 だから、彼が言わないけれど、思っているであろう願いを叶えてあげたくなる。 「やっぱり明日、友達に会おうかな。お言葉に甘えて」 まるで友達と会うのが私の願いであるかのように、そういうニュアンスで伝える。 「俺のことは気にしないで、行って来なよ。こっちこそごめん。一緒に出掛けないで」 自分の思い通りになってからじゃないと、彼は私に謝らない。 「ううん。じゃあ、連絡してみる」 「うん」 いつも会話の最後に私が見ているのは、彼の横顔か、背中だ。  私はいつになれば、彼の“慣れ”と同じように感じられるのだろう。 もし出来るのなら、彼の“慣れ”の量を超えてみたい。 そして私よりも先に、「ごめん」と言わせたい。 私の横顔とか背中を、切なく眺めて謝ってくれるのなら、それでいい。
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