俺はドラゴン、お前は

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俺はドラゴン、お前は

「よく見る夢があるんだ」 その男は、夢について語る。 ほとんど会うたびに話すものだから、若干嫌気がさす。 私にとって夢の話など、どうでも良くて、それも自分の夢じゃないとなれば、さらにどうでも良かった。 「俺はドラゴンなんだよ。なんか、すごいリアルでさ」 私は愛想笑いが上手いのかも知れない。 その男は、飽きずに延々と夢の話をした。 「飛んでる時の風の感じとか、自分の体の長さの感覚が、今思い出しても凄いんだ」 まだ話し続けるから、 「そんなにいつも夢ばっかり見てたら疲れちゃいそう」 と、そろそろ終わらせたくて、私は言う。 「お前は全然、夢見ないの?」 真っ直ぐに私を見つめるその目は、純粋過ぎてムカついた。 「うん、見ない。ぐっすり眠れてるんだと思う」 「ふーん」  自分の見た夢を語る時とは違い、夢を見ない私へのリアクションは薄かった。 でももし、私なんかじゃなくて、同じように夢をよく見て、純粋な目で語る女だったら、それはそれで疲れそうだ。 私が冷静でいることが、逆に相性としては良いのだろう。 そう思い続けていた。 実際、私が最初にその男を好きになったのも、そんな馬鹿正直なところだった。  それからしばらくして、ある日、目覚めた私は涙を流す自分に驚く。 物凄く、切ない感覚が残っていた。 でも、思い出そうとすればするほど、その感覚は薄れてしまう。 ドラゴンみたいに強烈な夢なら、長い間覚えていられるのだろうか。 それとも、私が夢に慣れていないせいで、うまく記憶できていないのかも知れない。 「ねえ、今日ね・・・」 私は、思い出せないけれど、夢を見たことについて語れるのを喜んでいた。 今まで散々、夢を語られるたび、飽き飽きしていたけれど、ようやく私にも語れる時が来たのだ。 内容は思い出せなくても、ほんの少し残る感覚を伝えよう。 そう思ったのに、 「あのさ、話があるんだ」 と、私の話を遮って、いつもとは違い過ぎるトーンでその男は言った。 「話?何?」 純粋な目は、下に向けられ、私を見ようともしない。 「別れてほしい」 その発言こそ、夢かと思った。 「えっ、ちょっと待って」 「もう、別れたい。お前もそうだろ?俺とは合わないっていつも思ってただろ?」 「いや、私は・・・」 私は別れたいなんて、思ったこともない。 「俺が悪いのは分かってる。いつも、自分の好きなようにしてきたから。くだらない話ばっかりでさ」 そんなことない。 私はただ、羨ましかっただけだ。 純粋な目も、楽しそうに語る姿も、自分にはない要素で羨ましいと、本当は思ってた。 それを伝えればいいのに、私は何も言えないでいる。 「あ、なんか今のこの感じ、デジャブだわ」 こんな深刻な場面なのに、また夢の話だ。 呆れて笑ってしまいそうになる。 いや、違う。 私は泣きそうになっている。 「別れたいんだよね?もう、決めたことなんだよね?」 言いたいこととは違う問いかけをする自分に、本当の嫌気がさす。 「ああ。別れよう」 ようやく私の方を見たその目はやはり、純粋そのものだった。 私の本心なんか、伝わるはずがない。 「うん、別れよう」  その男に、私の見た夢を語ることはないまま、二人の関係は終わった。 それから私は、眠る時も目覚めた時も、その男とドラゴンのことを思い出さずにはいられなかった。
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