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「父と握手しているのを見たら感度しちゃった。ありがとう、父に優しい言葉を掛けてくれて」
控室を出て、斗真さんと会場へ向かう。
「私以外の肉親である伯父様があんな風だから、父は孤独を感じていると思ったの。私も日本へ頻繁に帰れないし」
再会した頃より私の口調は砕け、きちんと意見も言えるようになった。
「お義父さんの研究の手伝いが出来るのは峯岸グループとしてもメリットはあるんだ。頭を下げなくたっていい。それに君も今や研究員の一人じゃないか? 妻の夢を応援してもいいよな?」
悪いはずがない。私は父の仕事を正式にサポートする研究員として迎えられた。
「だから、そういう所が好きなんです! こんな格好いい斗真さんと結婚出来るなんて、私は幸せだなぁ」
自分から手を繋ぎ、微笑む。すると珍しく斗真さんは複雑な顔を浮かべた。
「どうしたの?」
「いや、前に秘書に言われた事が過ぎってさ」
「何を言われたの?」
「『女性の言葉を額面通り受け取ってはいけません』と。この頃の姫香は素直に気持ちを伝えてくれるようになって、それはそれで嬉しいんだが、素直じゃない君も恋しいというか。あれはあれで可愛かったなと」
それはそれで、あれはあれと乾いた笑い声を出す斗真さん。
「……斗真さん、私に素直になる魔法を掛けたんじゃなかった? ふーん、そっか、素直じゃない私の方が好きなんだ?」
「あ、おい! 姫香!」
私は頬を膨らめ、手を離す。慌ててフォローしようとする斗真さんを擦り抜け、駆け出す。
幸いこのパンプスは私専用、走ってもジャンプしようと脱げないのだ。
パーティーの参列者の面々に緊張していたのが嘘みたいに心が軽くなる。
数十秒後、私の王子様が追い付いたら、ガラスの靴の履き心地を伝えてみよう。
最高に幸せですーーと。
おわり
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