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父が伯父と疎遠であった理由を理解する。
唯一の肉親である伯父と交流がないのが不思議で訊ねた際、父は曖昧に言葉を濁すだけで本音は言わなかった。というより言えなかったと思う。
「嫌です! 浅田さんの所には絶対に行きません。私は父の側にいます!」
「だから治療費は? 職を失う使用人や研究員の補償は? 結婚式のキャンセル料はどうする? もう諦めなさい。ここへ寄ったのは実家に帰るのもこれが最後だからだ」
「は、離して!」
髪の毛を鷲掴みにされ、窓辺に引き摺られていく。
「庭から見える景色も見納め、存分にご覧よ。姫ちゃんは花を眺めるのが好きだろう?」
カーテンを開け、解錠する。私は固く目を瞑り抵抗を示す。
と、ふわりーー柔らかい風、それから薔薇の香りが頬を撫でた。
「そうか、悪い魔法使いはもう一人居たんだな。窓から登場するのは少々決まりが悪いが、迎えに来たよ姫香」
声と共に頭部の痛みが消え、睫毛を誘うようなぞられる。
「おやおや、お姫様はキスをしないと目を開けてくれないのかな? 可愛いおねだりには是非応じたいけれど、先ずは悪い魔法使いをやっつけようか。ね? 目を開けて。もう悪夢は終わりにしよう」
目を開けてみると斗真さん、それと彼に吹き飛ばされたであろう伯父様が転がっていた。
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