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花占いでもする風に思い出を一片、一片、話してくれる。
「姫香が生まれた日の事も覚えているよ。いつか出会う自分のシンデレラには脱げないガラスの靴を贈りたいと当時から考えててさ、姫香を見たとき予感がしたんだ。この子が俺のお姫様だって」
ここまで言って貰え、私は何を迷うのだろう。
涙を拭い、姿勢を正すと胸に手を当てた。
「あの時、父の容態が急変して病院へ行かなければいけませんでした。商談を控えている斗真さんにそれを伝えれば私の側についていてくれると自惚れ、どうしても言い出せなかったんです」
「それは自惚れじゃないな。事情を聞いたらそうしていたし、聞かなくとも此処にいるけど」
「あ、あの、仕事は大丈夫なんですか?」
「秘書に散々嫌味を言われた。だが、優先順位は間違えない。俺は仕事も姫香も諦めない選択をする」
「どちらも諦めない選択を?」
「あぁ、姫香はどうするんだ?」
「ーー私は斗真さんが好き、あなたの側にいたい、イタリアへついていきたい。でもお父様の側にもいたいです。こんな我儘を言っても?」
「それが俺のお姫様のご要望とあらば。それではお姫様に魔法をかけてあげましょう」
斗真さんは胸ポケットに差してあった薔薇をこちらへ向けて、ステッキのように回す。
「あ、言い忘れたが俺の魔法はタダじゃないうえ、掛けたら一生解けないがいいか?」
「ふふ、斗真さんが三人目の魔法使いですか? 魔法使いさん、私、持ち合わせがないんですが?」
「お金なんていらない。俺をもう一度好きだと言って抱き締めてくれればいいよ」
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