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私が抱き締めやすいように斗真さんは膝を折る。彼が芝居がかったやりとりをするのは私を素直にさせる為で、斗真さんが好きな事やお金がない事もありのまま伝えられる。
「斗真さん、好きです」
「うん、俺も姫香が好きだ。この薔薇を受け取ってくれる? 花好きの君なら一本の赤い薔薇の花言葉、知ってるよな?」
「……はい、私にも斗真さんしかいません」
薔薇を受け取ると、斗真さんから強く抱き寄せられた。
私、本当に幸せよ。そう心より感じられた時、室内に母の気配があった気がする。たぶん母は私達を祝福して微笑んでくれたのだと思う。そして父の回復を祈っていると。
ーーこうして、私の初恋は実ったのでした。
■
後日、私は鏡の前でくるり、ターンをしている。
「ねぇお父様、どこかおかしくないかしら?」
今日は斗真さんと私の婚約パーティーが催され、日本からは父が出席してくれた。当初は親しい人だけを呼ぶ計画であったが、斗真さんの秘書がパーティーを仕切った事で仕事関係者も招く運びとなり、随分大掛かりな会となる。
「おかしくなどないよ。姫香は何を着ても愛らしい」
「もうお父様ったら、私に甘いんだから!」
父はあれから容態が安定し、車椅子を使用しつつも日常生活へ戻れた。最近では現場復帰も視野に入れ、病に伏せていた期間を感じさせない程の活力で満ちている。
「姫香の花嫁衣装を見るまではと踏ん張っていたが、それだけじゃ物足りなくなってきたよ」
「当たり前です! お父様にはいつまでも元気でいて貰わなくては。この先、授かればですが家族も増えます」
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