3人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ
最後の声の言葉はランドールも同感だった。
砦が襲撃されたのはランドールがそこで養生しようとした矢先だった。
移動している間は他を巻き込む可能性もあるから、ランドールが危険な行いをしない限り泳がせて、どこかに落ち着こうとしたら攻めてくるのかもしれない。
それを考えると人里離れたところで野宿するより、こうして町中に宿をとる方が安心できる。
「解雇された隊長はどうしてるんだ」
「あの女みたいな黄色の貴公子だろ?」
「蟄居しているとか、単独で捜索にでたとか、自害したとか色々聞くぞ」
ランドールは心臓が掴まれたみたいに苦しくなった。
「あの品行方正、清廉潔白で有名な奴が自害なんてするか?」
「だからだろうよ。眉目秀麗とちやほやされていい気になっていたんじゃないのか?」
「あいつの父親は貴族様だが、妾の子で平民だろ? 騎士になれたのは色仕掛けでもしてたんじゃないのか?」
「品行方正はそれを隠すための方便ってことか?」
これまでもクエンの噂話は良いのも悪いのも様々耳にしてきたが、今回ほどランドールを辛くさせたことはなかった。
「女みたいな顔して、どんな貴族女に取り入ってたんだろうな」
「前のエルビス公爵夫人の色じゃないのか?」
「マウンタニア皇妃の侍女長だろ? 男のふりした騎士だったと聞いたことがあるぞ。男より女が好きなんだとか」
「いや常勝の狂天使と呼ばれた女騎士のことだろ? それはエルビス侯爵夫人とは別人で、女の姿した男だったとも聞くぜ。女が男に勝てるはずないだろ」
噂話はそこから二形の話へと変わり、娼館の武勇伝へと変わっていった。
堅物の多いエスメラルダだが、都から離れるにつれて猥雑を好むものも少しづ増えてくる。国外からの旅人のこともあるが、会話の主はこの辺の小金持ちのようだ。
レントの生まれ育ちのランドールにとって猥談は別に嫌悪するようなものではなかったが、悪意ある噂話は悲しかった。
最初のコメントを投稿しよう!