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魔力の回復のためにと多めに頼んだ煮込みの味はよくわからないまま飲み込んだ。
強い蜂蜜酒もいつもより多く飲んだが酔えなかった。
不機嫌なまま戻ると虫たちはいなかった。
イライザもまだ戻っていない。
寝台にうつ伏せに身を投げ込んで呻く。
イライザはまるで生きているみたいだ。ポルポワズ導師よりも遥かに生き生きしている。
それもそうだろう。導師は傀儡子の法を施した時には確実に死んでいたし、その百数十年生きた身体も既にボロボロだった。
ランドールが早く新しい受け皿を見つけなければ、霧散してしまうのだ。
そうなれば自分も魔力を失う。
ふっと導師が求めている身体はイライザのように死ぬ前に作らなけらばならないのかもしれないと思い至ってゾッとした。
ただでさえポルポワズ導師やランドール並みの魔力の器を持っている者を探すことが難航しているのに、もし必ず生きている状態でみつけることが条件だというならば、可能性が半減するようなものではないかと思った。
いや、生きているうちに見つけて死期を待てばいいのだからむしろありがたいのか。もしや生きている者で見つけだせたなら、瀕死の致命傷を負わせるべきなのだろうか。
「イライザみたいに蒼白だな」
「ああ、おかえり。いい器はありそう?」
虫の声を頭の後ろに聞きながら応じる。
「この町にはない」
ポルポワズ導師に適合する器を持つ遺体を、虫がいつも探してくれているのだ。
生きている人も捜索対象にしてくれと言わなければならないと思ったが、口が動かなかった。
「何を悩んでいる」
「僕はなんで魔道士なんかになったんだろう」
「覚えるのが楽しかったからだろ?」
「ああ、いろんなことが出来て自由を感じられたんだ。でも今、僕は自由じゃない。…僕は人殺しだ」
「戦士が戦いで相手を死に至らしめるのは人殺しとは言わない」
「でも僕のせいで死んだ無辜の人がいる。導師は僕にもっと人を殺させたいのだろうか? イライザがティナの飼い主になれるのなら、なぜポルポルはあのまま導師の側に残らないで僕についてきたんだい?」
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