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虫はすぐには答えなかった。
顔の向きを入れ替えると、ぐるぐると目を回している虫が二匹いた。
「知らないの?」
強く聞くとニタリと笑った。
「導師は動けないだろ。それに」
「イライザが帰ってきたよ」
ティナがポルポルの言葉を遮った。
扉がノックされて、ランドールは寝台から降りた。
今回は虫が教えてくれたが、声を出せないイライザにはノックの合図を決めておくべきだったなと思いながら向かっていると金色の蝶が現れた。
「ああ、開けるよ」
笑いながら扉を開けると満面の笑みのイライザがランドールに飛びついてきた。
「お帰り…。酒の匂いがするね? の、ん、で、な、い。きゃ、く、の、く、ち。ちょっと待て、イライザ! 客ってなんだよ?」
ランドールが怒りだしたのを見て、イライザは怯えて離れた。
そしていっぱいに膨れた財布を差し出した。
「イライザ、君が遊びたいなら止めはしないけど、その度に君の身体を洗浄しなければならないってこと、わかっているのかい?」
イライザはティナの方を見る。
「お前のそこを洗うところをランドールにみせつけてやるかい? それともランドールに洗ってもらうかい?」
意地悪そうにティナが言うと、イライザは涙をこぼしそうな顔になった。傀儡子でなかったら、大粒の涙がこぼれていたことだろう。
「あ、そ、び、ち、が、う。そうだね。ごめん。ただ、君の身体はもう前とは全然違うんだ。大事にしないとすぐ壊れてしまうんだよ」
死体は常に身体が壊れていくのだ。その自然の摂理は道理を曲げる魔道であっても完全に止めることはできない。傷つけば補修したところで肉体は修復されない。なるべく腐敗菌をつけないことが長持ちさせるコツだった。
そんな脆い身体を酷使させるのが傀儡子使いなのだから、ランドールは自分の言葉がブーメランのように心に刺さる。
「身体を洗ってもらいなさい。それから明日になったら、そのお金でもっと旅向きの動きやすい服を買ってくるといい」
そう言ってランドールは部屋を出て、今度は酒場を通り抜けて町へ繰り出した。
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