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私は休日をゴロゴロと過ごした。夜になって、彼氏のミナトがやって来た。
「カナちゃん、誕生日おめでとう!」
アパートのドアを開けて、顔を見せるなり彼はそう言った。その両手はホールケーキを持っていた。
笑顔の彼に私はあきれて、「まあ入れよ」そう言って彼を部屋に招き入れた。
「高いやつだろ、これ」
テーブルの上に乗ったケーキを眺めて、私は言う。ケーキには誕生日仕様のメッセージが刻まれている。
〈歌奈ちゃん、30才おめでとー!〉
「30歳。何がめでたいんだよ」
私はため息をつく。
「そう言わずに。甘いもん食べたらハッピーだよ?」
ミナトはそう言って、包丁でケーキを切っていく。この青年は、外見といい仕草といい、けっこう女性的なところがある。
「誕生日にケーキ食べるのくらい、受け入れたら? 誰かが歌ってたよ、天国は簡単に手に入るって」
「……」
彼はニコニコと笑っている。私は、そんな彼を眺めて、泣きそうになった。
「まあ、そうか」
私は切り分けられたケーキを取って、お皿に乗せた。フォークで掴んで一口食べると、甘ったるさが口の中に広がった。
「誕生日おめでとう、カナちゃん」
彼は言った。
「……ありがとう」
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