化け物はこの中にいる

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場が沈黙に包まれる。 そんなワナに引っかからないぞ、とばかりに彼は黙り込んでいた。 何しろ自分自身がさきほど披露した手口だ。構えるのも無理なかろうが、あれは明らかにミスだった。 今回のクライマックスは5人目の正体だろうから、身内のくだりはさっさと片付けてさせてもらう。 死神が鎌をスッっとパンプキンヘッドの向ける。やはり気づいたようだ。 「何だ?」 パンプキンヘッドの言葉を無視し、死神は鎌を壁の方に向けて黙って文字のようなものを描き始めた。 何回か同じ所作を繰り返してる。文字はに文字のような。これはカタカナ。そう、これだ。 「オ・・・レ・・・。オレ?」 死神が頷き、再びパンプキンヘッドに鎌を向けた。 「あー!!そういえばさっき、『俺』って言ってた!その言い方ってつまり、男!」 プネコの声に死神がウンウンと頷く。 「だからは『俺』はここ最近、みんなの指に注目してたんだ。特に女性のネイルは『近くでしっかり』ね。」 自分の推理を披露できてすっかり舞い上がっていたのだろう。 思わず普段の口調が出てしまったようだ。 俺はふう、とため息をついた。これで身内は全員わかってしまった。 案外早かったが前座としてはこんなものだろう。 男二人と女二人のグループ。俺が声を上げたことで真っ先に正体がバレた。 だからパンプキンヘッドはもう一人の男、ガメだ。『俺』というセリフだけだったらコラボでやってきた5人目の可能性もあったかもしれない。しかし『近くでしっかり』となればメンバーしかない。 俺、プネコ、ガメ。3人の正体と照らし合わせ、残された化け物二人を見比べるとおのずとメンバーもわかる。死神はイヌユだ。どちらかが女性となればそう考えるしかない。 とそこで、ガメがボイスチェンジャーを通したまま声をあげた。 「まだ男とわかっただけだ。どっちかわからないだろう。」 俺は呆れて言い返した。 「おいおい。俺が先に声出しちゃってるんだからわかっちゃうだろ。往生際悪いぞ。」 「ふふーん。それなら私の推理を披露しちゃおうか。私もわかっちゃったよ。」 「なんだよプネコ。君までそんなこと・・あ、そうか。」 言いかけたところで、彼女の意図に気づいて思い直した。 そう。5人目のことに頭がいっぱいになってしまってたが、これは視聴者に向けたライブ配信だ。 この場で提示されたのはパンプキンヘッドが『俺』という言葉を使ってた、ということだけ。『近くでしっかり』見れたのはガメであるという推論はまだ語られてない状態。であれば、このままだと「5人目の正体が男の場合、どっちかはわからない」という可能性が残ってしまう。視聴者に解説しなければいけないだろう。 それにしても「どっちか」というワードは5人目の正体が男とわかってないと出てこないセリフだ。どうやら客を招いたのはガメと考えてよさそうだ。どこまでも迂闊な発言をするものだ。 追求は後ほど行うとして、まずは正体明かしの解説だ。 「よし。ここはプネコに譲ろう。推理を続けたまえ」 「どうゆうことか教えてもらおうか。」 言い終わらないうちにガメが被せてきた。 少し焦ってるようだが、解説の流れを作ろうとするのは演者として褒めてやるべきだろう。 化け物たちに見守られて、魔女のプネコが話を続ける。 「それでは教えてあげましょう。えっとね、じゃあまず、そのゾンビに注目してみようか。」
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