第9話 リターン

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第9話 リターン

 光太郎がここを離れてすぐの事。突如Monsterが目の前に出現した。 「「「キャー」」」 「おい!」 「死にたくねえ」 「皆さん落ち着いて下さい!木城さん!」  私は詠唱を唱えた。 『後は呪文を唱えるだけ。頑張って弓』    目を開けるとMonsterの大きな爪が目の前だった。 「ブースト、ダブルブースト、トリプルブースト。皆さんしがみついてー。トランスファウラー!」  転送中の感覚は毎回違っている。  大地に着地した私は周りを見渡した。全く記憶に無い場所だった。 「ここは?はっ、皆さんいますか?」 「くそっ!」   木城さんはあたしの近くに着地したみたいで、彼は四つん這いになり、片方の拳で硬い土を何度も何度も殴っていた。それと涙を流している様だった。 「木城さん?」  皆んなが私のところに集まって来た。そのうちの一人が安否を確認してくれていた。 「皆んないるよ」 「久米さんありがとう」 「「「ありがとう」」」  あたしはその言葉で安心した。心の中で詠唱を始める。  木城さんが私の行動に気がついたみたい。私の腕を掴もうとしたが、私の詠唱の方が早かった。 「おい、弓ちゃん?」 「ごめんなさい。皆さんご無事で何よりです。トランスファウラー!」 『木城さんの事が心配だったけど仕方が無い。』  私は草原に着地すると、すぐに光太郎を探した。 『あたしには千里眼がある。好きな人くらい直ぐに見つかるよ』  直ぐに見つかった。彼はスタート地点で仰向けに倒れていた。 「光太郎、光太郎!」  私は彼を思い切り叩いた。 「痛っ!」 「よかったぁ」 「弓」 「光太郎」  彼は起き上がると『プイ』っとして人が落下してくる地点へ向かって歩き出した。あたしも彼に続いて歩き出す。 「あれっ。こういう時は、こう、再会のハグとか」 「無い」 「どうして」 「何故戻ってきた!」 「光太郎が心配だったから」  彼は私を強く抱いた。涙が溢れ彼も泣いている様だった。 「皆んな無事戻れたのか?」 「はい」  俯いてしまった。彼は私の肩を強く抱きしめ 「本当なのか?」 「はい。間違い無いです」 「そうか。ありがとう。それに助けてくれて」  私は首を横に振った。 「あたし転送の時見えたの。光太郎が鬼神化する姿が」 「は、は、は。だよな。覚醒が始まったんだな。戦闘中は気分が高揚していたよ。なんて言うか排除が楽しいって」 「光太郎?」  彼は日が登り始めた赤と黒が入り混じった空を暫く見つめていた。それからあたしに顔を向けると 「弓は大丈夫か?何回ブースト使ったんだ」 「三回以上。普通なら死んでいたかも」 「タブーな」 「ごめん」 「うん?」  彼はぽつりと言った 「降ってきた」  私達は岩陰に隠れて、当たりを見渡わたす。 『千里眼。痛っ、吐きそう』 「いました。あの先の茂みの中です」 「距離があるなぁ」  彼はMonsterの遠吠えがする方を見つめ 「良く聴いてくれるか」 「はい」 「彼女を連れて先にアジトに戻ってくれるか?」 「えー、あたしを置いて行くの?」  あたしの方へ顔を向けた彼の顔には模様が薄らと現れている。 「分かりました。その後は様子を見てれば良いですか」 「そうしてくれ」 「光太郎?」 「どうした?」 「目尻の辺りから頬に向かって赤い模様が」 「ああ、わかっている。すぐに角が生えてくる」 「光太郎」  彼は前を向き体全体に力を入れている様で、アーマーからでも筋肉が膨張しているのがわかる。 「3、2、1で行動開始する」 「ねぇ」  彼のアーマーを引っ張るが振り向こうともしない。カウントダウンが始まった。 「••1GO!」  彼は行ってしまった。私を置いて。 「えいっ、いじけても仕方ない。行くよっ!」 私は歯を食いしばり走り出した。  彼女を連れてアジトに帰還した後、極力Monsterに気付かれない様に慎重に千里眼で彼を探した。 「帰ってきたわ」 「お疲れ様、彼女は?」 「まだ寝ています」 「わかった。ちょっと様子を見ても良いか?」 「ダメです。まだ寝ていますので、そっとしておきましょう。それより、こっちにきて下さい」 「うん。弓ちゃんの怖い顔。不安をかきたけるのだけれど」  あたしは彼の手を引き別室に入った。私達は向き合うと、彼が困惑しているのを無視した。 「服を脱いでください」 「弓ちゃん?」 「これはからは弓で通して下さい」 「はい」 「では脱ぎます」 「ちょっと待って。恥ずかしいから」 「じゃあ、お互い後ろを向いて下さい。一斉のうせで脱ぎましょう。パンツは履いたままでいいです。一斉のうせ」 「脱ぎました!」 「ちょっと手伝って下さい。ホックが外れなくて」 「えっと、見えないけど」 「あたしの方に向いて、これを外して下さい」 「どうやるの?」 「あたしの手に合わせて下さい。こうやってつまんで」 「外れたっ!」  私はクルッと回り彼の前に。 「あのぅ」 「こういう時は、綺麗だよとか可愛いとかいうんです!」 「あっ、そうか。書いてもいい?」 「ダメです」  …事が済むと 「弓もうダメだよ」 「ポーションがありますから、夜まで頑張って下さい」  待機部屋から物音がし、私は壁越しに待機部屋を見た。 「彼女気がついたみたいです」 「様子を見に行こう」 「ダメです」  彼は怪訝な顔をしている。 「Monsterの排除行動以外ではあたしの言う事を聞いて下さい」 「はい」 「メモを出して下さい。一つ目、女の子に近づかない。3メートルの距離を開けて下さい。二つ目、女の子と話さない。三つ目は目も耳も塞いで下さい。以上です」 「それじゃ」 「あたしが彼女と話しますから」  彼は渋々頷くと服を着だした。
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