第10話 光太郎とあたしでパーティを組む

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第10話 光太郎とあたしでパーティを組む

 身支度を整え別室を出た私と光太郎は、待機部屋のドアの隙間から中を覗いた。彼が上からあたしがすぐ下からドアに顔をつけ目だけで覗いているので、多眼のMonsterと間違われてもおかしくない。  待機部屋で気絶していた彼女は欠伸をしていて、目を開けるとバッチリ目が合った。 「何しているんですか?」 彼女の一言で観念して待機部屋のドアを開け中に入った。  あたしが彼女のそばに行くと、光太郎が付いて来た。振り向き彼を見ると目を逸らし固まっている。 「あたし言いましたよね。メモも取りましたよね」 「はい。弓以外の女の子に近づかない、見ない、話さない、話を聞かない」  彼はそう言い自主的に離れて行った。 「弓、この辺で良い?」 「はい、大丈夫です」  彼が目を閉じ、耳を塞いだのを確認してから、彼女に話しかけた。 「真弓さん、ありがとうございました。うまくいきました」 「そう良かった。で彼は何をしているの?」 「彼に約束させたんです。あたし以外の女性に近づかない様に」 「やりすぎじゃない?」 「女性に免疫が無いから怖いんです。知らず知らずのうちにできてしまったとなりそうで。それに…」 「幼馴染ね」 「はい。彼が気づいていないだけで、幼馴染の事を好きだったって言う展開あるじゃ無いですか。だからあたし以外の女性に興味を持たせない様にしようと考えたんです」 「ふ〜ん。よく考えたね。でも彼だから通用したんじゃないかな。普通の男性なら嫌がるわよ」 「そうですよね」  あたしは苦い顔をした。  あたしは独占欲が強いのかもしれない。過去、付き合い始めてから一月もしないうちに別れた事もあった。 「真弓さんの情報教えても良いですか?」 「良いわよ。彼、それを知りたいんでしょ」 「はい。そうです」 「教えてあげて」  あたしは彼のところに行き情報を伝えた。彼を連れて彼女の所に行く途中、彼が立ち止まり草原の方へ目を向けた。 「落ちてきたの?」 「そうみたいだ」 「何、何が合ったの?」  真弓さんがこちらにやってきた。 「はい、私達の様に現世からここに転送されてきました」 「僕が行ってくる。弓は真弓さんと一緒にここにいてくれ」 「どうして一人で行こうとするの?」 彼はあたしの目を見つめ 「弓を危険に晒したく無い」 「じゃあ、私なら良いの?」 私も彼も真弓さんに目を向けた。 「そ、そうゆうわけでは…無いです」 「じゃあ、弓さんだけでは無いじゃない。南君、なぜ彼女を信じられないの?」 「信じていないわけでは無い。僕だってパーティを組んでやった方が楽だ。しかし、ここはゲームじゃ無い。リアルなんだ」 「貴方の言うこともわかるわ。でもね。彼女妊娠しているのよ。わかる?」 「えっ、に、妊娠?」 「真弓さん」 「弓ちゃんは黙ってて。そうよ、妊娠よ。妊娠したら母親も父親も一緒にいないとダメなの。片時も離れちゃダメなの。わかった?」 「えっと、僕が父親って言うことですよね」  彼の最後の言葉はすごく小さく聞こえた。 「そうよ。貴方が弓ちゃんのお腹にいる赤ちゃんの父親よ。わかったら一緒に行動しなさい」  彼の煮え切らない態度に腹が立ち彼の手を引っ張ってドスドス歩き出した。 「弓痛いって」 「もう。行きますよ」 「一緒に行くから引っ張らないで」 「分かりました」  私は手を離し彼に並んで歩く。アジトの出口で彼がおもむろに言った。 「弓、赤ちゃんの名前何が良い?」 「今それを考えていたんですか?」 「うん。早い方が良いって思って」 「まだ先の話だから、今はいいんです」 『本当何を考えているのかわからない』 「いいですか?今は救出の事だけ考えましょう。あたしが後方支援をしますから、光太郎は何も考えず戦闘に専念して下さい。なるべく光太郎に当てない様にします」 「わかった。注意をするよ。弓は落ちて来た人を救出したら帰還してくれ」 「はい。それと落ちて来た人が男の子だったら放って置きます」  光太郎は一瞬驚いた顔をしたけど直ぐに笑顔になり 「それで良い。誰にも弓を渡さないから」 「ありがとう。行きますよ」 「行こう」  光太郎が走り出すと、あたしも走り出した。途中から二手にわかれ落ちて来た人の方角に向かって行った。 「千里眼」 『光太郎の救出以外に使いたくはなかったが今は目先のことを考えよう』  千里眼は夜間の場合、暗視カメラの様に少し明るくなる程度だけれど、昼間の場合にははっきりとしていて、位置や状態がわかりやすい。  落ちて来た人を見つけると、辺りに目を配りMonsterの存在を確認する。 「光太郎も無事だわ」  あたしは体勢を低くし、落ちて来た人の側に着くと性別を確認した。 『良かったぁ。男の子だったらどうしようかと思った』  彼女を揺すってみたが反応がないため、彼女を抱き抱え光太郎の元へ転送して、彼も捕まえると、二度目の転送をした。 「光太郎、大丈夫?」 「僕は問題ない。弓は大丈夫か?」 「はい。大丈夫です」 「彼女を待機部屋に連れて行こう。彼女の腕を肩にまわしても良いか?」 「はい。許可します」  あたし達は彼女を待機部屋に運ぶとヒーリングをかけた。 「ありがとう。助かります」  光太郎があたしを見ていて 「良いですよ」 「良かったぁ」 「何が良かったんですか?」 「いや、またあの隅までいかないとダメかと思って」 「今だけです」  彼は頷きitem boxからノートと鉛筆を取り出しあたしの指示を待っている。あたしの横には真弓さんがいて、彼女も話を聞こうとしている。  あたしは咳払いをした。 「あの、この世界に転送されて気が動転しているかもしれませんが、何点か確認させて下さい。まず一点、お名前を教えてもらえませんか?」 「えっと、伊藤陽奈、高校一年生です」 光太郎と真弓さんを見て 「次にゲーム『X』について教えて下さい。『X』歴とゲーム内の職業、それと現在のレベル、良ければ所持しているitem、スキルも教えて下さい」 「はい。『X』はまだ始めたばかりで良くわかりません。彼と一緒にプレイをしていたのですが、気がついたらここに居て」 「分かりました。では少し貴方の情報をスキャンさせて下さい」 「分かりました」  あたしは彼女の額に手を当て片手でペンを持ってノートに書き込んでいった。 「ありがとうございました。最後になりますが、通学している高校の名前を教えてもらえますか?」 「えっと、なぜですか?」  あたしは光太郎に目を向けて彼女と向き合った。 「自己紹介が先でしたね」 「あたしは久米弓、駿河台付属高一年、『X』歴三ヶ月、レベル40魔法使い、神官のスキルを持っています」  あたしが光太郎に目線を向けると彼が話し始める。 「僕は南光太郎、都立南小金井高一年生、『X』歴五年、レベル83アタッカー」  彼が真弓さんに目を向ける。 「えー、私も?」 「はい、お願いします」 「分かりました。私は結城真弓、横浜市立横浜南高二年、『X』歴三年、レベル50神官よ」 「あたしは伊藤陽奈、都立南小金井高一年、『X』歴数ヶ月、レベル80、神官です」 「嘘をついたのね」 真弓さんが言った。あたしは真弓に向き首を横に振った。 「陽奈ちゃんと呼んでも良い?」  彼女は俯いたまま頷いた。 「あたしも光太郎に出会った時嘘をついてしまった。でも彼はそれを許してくれたの。だから」 「あたし、美幸から伝言を頼まれただけなんだから!」  彼女は泣いてしまった。  この場合仕方なかった。彼と陽奈ちゃんを二人きりにし、彼だけに伝言を伝えてもらう様にした。彼女と二人きりにして何もなかったから良かったが話が終わるまでハラハラしていた。  その後、真弓さんと陽奈ちゃんの三人で話し、明朝に一旦現世に帰ることにした。  帰り際、あたしは彼に小声で伝えた。 「私以外は信用しないで。陽奈ちゃんは大丈夫だと思うけど。一日で戻ってくるから、Monsterの討伐もしないで」  心配だったが帰還してレベルを上げたり、必要な物も課金したかった。それと美幸さんと連絡もとりたかった。
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