第13話 迷宮を目指す

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第13話 迷宮を目指す

「よしっ着地成功」    あたしはアジトに無事転送した。アジトは静まり返っていて昼間なのに薄気味悪いくらいだ。 「光太郎」  待機部屋の扉を開けたが彼は居なかった。別室の扉を少し開けると、彼はベッドに座り項垂れていた。 「光太郎」  あたしは扉を開けて中に入った。 「光太郎」  彼が上げた顔には涙が流れていた。ふらっと立ち上がりフラフラしながらあたしの所へ来ると抱きつき声を上げて泣き出した。  彼が泣き止むのを待って 「落ち着いた?」  あたしが軽くキスをすると彼は吸い付く様に厚く唇を重ね、そのままベッドに倒れ込んだ。彼は激しくあたしを求めた。    事が済み私は服を着ようと起き上がると 「もう少しこのままでいさせて欲しい」  あたしは再びベッドに入り彼を抱いた。 「もう寝ちゃった。気が休まらなかったのね」  あたしは彼の髪を撫でた。 『やはり生身とは違う』  日がくれ月明かりの日が窓から入っていて、別室は日が当たっている部分を中心にほんのり明るくなっている。  彼が目を覚ますと軽くキスをして服を着た。彼は顔を上げ草原の方へ顔を向けた 「また降ってきた」 「救出に行く?」  彼は迷っている様だった。 「行こっ、昼間落ちてきた人もいるんでしょ」 「うん。行こう」  あたし達は注意を払いながらアジトを出ると、月明かりに照らされた草原が風に靡いて揺れていた。虫の音が聞こえるくらい静かだった。  光太郎を先頭にゆっくり進んだ。Monsterに遭遇せずに落下地点にたどり着くとあまりの光景に唖然し、食べたものを吐いてしまった。 「光太郎」  彼は方向転換をしあたしと向き合った。 「戻ろう」 彼の表情は怒りとも悲しみとも違う表情をしていた。 「ここはもうダメだ」 彼がその場を退くと空気を入れたビーチボールよりやや小さめの楕円形の物が数個落ちていて、周りに蠢く人達がいる。 「どうして」 「まるでジェラックパークの様だな。もうここは危険だ。アジトに戻ろう。念の為詠唱をしておいてくれ」  あたし達はアジトに引き返した。 「光太郎」 「……」 「知ってたの?」  彼は黙っている。あたしは彼をそっと抱いた。彼は嗚咽を漏らした。 「辛かったんだね」 『ゲームの中のMonsterが繁殖をするなんてあり得ない』  私は決心した。 「上の階に行ってみない。いずれは食料も切れるし、心も休めないとおかしくなっちゃう。ね」  彼は頷いた。  ここから迷宮まで遠い。普通に歩いても一日二日かかるだろう。日中に移動するか夜間に移動するか迷っていた。二人とも迷宮までの道のりを歩いた事がなく、いつどんなMonsterが出現するかわからないからだ。  一度現世に戻りやりたい事があったが、今は光太郎優先で考えたい。 「「そう言えば」」  あたし達は笑った。光太郎に笑顔が戻ってよかった。 「どうぞ」 「ここにきた日にタブーを言って迷宮に転送したんだ。もしかしたら草原を歩かなくてもいけるかも知れない」 「私も貴方が言ったことを思い出して」 「うん。試してみよう」  彼は私をギュと抱きしめてタブーを言った。 「ご愁傷様」 しかし、うんともすんとも言わない。 「あれどうしたんだろう」 「この間はうまくいったの?」 「そうなんだけど。一人でないとダメなのかわからない」 「一人でやってみる?」 「ダメだよ。弓はどうするんだ?」 「ここで待ってる」 「だよね」  あたし達は無言になった。  あたしのスキルも試したが、行った事がない所には転送しなかった。 「仕方ない。明日早朝出発しよう」  あたしは美幸さん達に行き先を伝えるため張り紙を残した。  今日も張り切って愛し合った。
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