第14話 ゴブリンとの協定

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第14話 ゴブリンとの協定

「弓起きたか」 「う〜ん。もう少し寝たい」  弓は目覚めると目を擦りベッドに足を崩して座っている。 「おはよう」 「おはようございますっ! 「よく眠れた?」 「はい。あの、ごめんなさい」  ベッドに正座して謝る弓を見て吹き出してしまった。 「何がおかしいんですか?」 「まだ、ゆっく寝ていてもいいんだぞ」  網戸もない窓から差し込む陽の光で大体の時間がわかる様になってきていた。 「もう昼ですよ」 「昨日は散々歩いたから疲れただろう」 「うん。筋肉痛みたいに体中が痛くて」 「Monster汁だけど食べるか?」 「はい。頂きます」  弓が美味しそうに食べる姿を見て早起きして良かったと思う。  昨日は狩りをしていたMonsterに遭遇したり、アーマーを着ていると暑くて熱中症になりそうになったりして精神的、体力的にかなり消耗いていた。  アジトを出発して一日経った。目的の迷宮がまだ先に見えて中々出発する気にならず、二日目の夜になってしまった。 「弓気をつけろ。Monsterの気配がする」 「はい。千里眼で位置を特定します」  夜だと言うのに暑い。  弓は僕の方に顔だけ向け言った。 「北方向、1km付近に二体います」 「ありがとう。慎重に行こう。右側は安全か?」  弓は右にある森に目を向けて目を光らせる。 「特には問題はない様に思いますが、夜間なのでやめた方が良いかと思います」 「わかった。まっすぐ進もう」  僕達はゆっくり進み建物の跡地に向かった。建物の跡地はアジトより小さく小屋に近い建物だ。  僕達は交代で寝る事にした。弓が当番の時も気を張る様にしているためほぼ眠れていない。ポーションを使えば回復するのだが、温存していたいのでむやみに使わない様にしている。  明け方、僕は弓がぐっすり寝ている事を確認して跡地を出ると鬼神化しMonsterの討伐に出た。数十秒で討伐し必要な部分のみ残して跡形もなく消し去った。 「おはよう」 「おはようございます」 「よく眠れた?」  弓は少し間を開け応えた。 「ううん。ほとんど寝てない」 「うるさかったか?」 「ううん。こう言うところだと寝付けなくて」 「じゃあ、僕が出かけた事も知ってた?」 「うん。どこかはわからないけど、あたしの顔を見て出て行ったから怪しいと思ってた」 「ごめん」 「いいの。討伐して来たんでしょ」 「うん。鬼神化すると数十秒で討伐できるからそうしている」 「大丈夫?」 「今のところ問題ない」 「わかったもう聞かない」 「うん。ご飯食べよう」  朝食後、跡地を出発して数時間で迷宮に繋がる地下通路を見つけた。僕達は地下通路に続く階段を降りて行った。 「光太郎、ここ怪しくない」 「階段が長すぎる地上に戻ろう」  僕は後ろにつき階下を見つめ、弓が先導している。弓が立ち止まった。 「囲まれている」 「その様だ」 「ゴブリン」 「トロールもな」  僕達は前後を見据え小声で話す。 「転送はできそうか」 「はい、やってみます。あたしの手をぎゅっと握っていて下さい」  弓が詠唱を始めると、僕は内に秘めている力を半分解放した。 「行きます。あたしを抱いて下さい」  僕達は抱き合い弓の合言葉と共に眩しいくらいの光りに包まれ転送していく。  転送中、鬼神の僕は共に転送できない事がわかり、僕は弓を離し地下に続く階段に落ちて行った。  手を伸ばしている弓が見え『ごめん』と心の中で呟きテレパシーで彼女に伝えた。 『弓心配するな。地上に降りたら防御壁を展開していてくれ』    僕は彼女を信じて、内なる気を全解放し鬼神化した。炎属性で真っ赤に燃える鬼となり、階段を一気に駆け上がった。ゴブリン共は燃え上がり溶けていった。  地上への入り口に差し掛かり、筋肉を膨張させ一気に突っ込んだ。  爆発音と共に石蓋は木っ端微塵になり、僕は一気に高く飛び上がり詠唱した。 「ファイアーボール」 投げた火の玉は地下通路に入ると爆発して炎の渦となり至る所から炎が上がった。 「弓大丈夫か?」 「うん。大丈夫」 「一旦離脱しよう」 「うん」 「僕にしがみついてもらえるか」  僕は彼女を抱き抱え走れるところまで全速力で走った。  跡地にたどり着くと彼女を離し、来た道を見つめた。 「千里眼を使えるか」 「はい。3km地点までゴブリンの群れとトロールが迫って来ています」 「ここも時間の問題だな」  僕は彼女を見つめ抱きしめた。そしてゴブリンが向かってくる方角を見て彼女に向きなおると 「ポーションをくれないか。それとここから現世に戻れるか試してほしい。僕は必ずここに戻る」  弓は渋々僕にポーションを渡して、転送を開始した。  僕はポーションを口に含めた。炎の属性で体が燃え上がり、ゴブリンの群れが来るのを待った。  ゴブリンの群は、ゴブリンロードを先頭に二十匹程のゴブリンにトロールが三体背後に控えている。 「遅かったな」 「ひへへ、オーガ様に我々が敵うわけがない。先ほどのお詫びと我々をオーガ様の配下に置いてもらえないかと進言に参ったのです」 「それで」  彼らを信用して良いかを迷っている。 「それでとは?」 「真の目的ではないだろう」 「はい」 「あそこか?」 「はい」 「あそこを突破すれば良いのだな」 「作用でございます」  ゴブリンロードのニヤニヤした顔が無性に腹が立つた。 「見返りは?」  ゴブリンロードは後ろのゴブリンに指示をした。  僕はファイアーボールを手にして今にも彼ら目掛け投げようとした。 『弓が捉えられた?なぜだ?』 「待ちなされ。かの(おんな)には手出しておりません」 「証拠は?」  ゴブリンロードはすぐ後ろのゴブリンの首を切った。 「キャー」  弓は悲鳴を上げ気を失った。 「条件がある。まず(わが)つがいをこちらに渡してもらいたい」 「ほう、条件とはな。よかろう」  ゴブリンロードが指示をし彼女を縛り上げているゴブリンが半分投げる感じで弓を渡した。  その瞬間ファイアーボールを投げていた。ファイアーボールは一直線に飛び当たったゴブリンはチリとなり、トロールに当たってファイアーボールは消滅した。 「粋な真似をしてくれる」 「大切な我つがいを投げた罰だ」 「成程承知した」 「協定の方はいかがかな?」 「よかろう。後日迷宮に向かう。それまで我々に近づくな。近づいたら殺す」 「仰せのままに」  ゴブリンロードと配下のもの達は頭を下げた。僕は横目で見ながらアジトまで走った。
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