第17話 悪魔の取引

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第17話 悪魔の取引

 光太郎と別れ現世に帰還した私は、皆んなの無事を確認した後電話をかけた。 「弓です」 「よう妹よ。元気にしていたか?」  「あの、準備は整ったのですか?」 「ああ、ばっちしだよ」 「分かりました。今からそっちに向かいます」  あたしはタクシーを捕まえVermont社に向かった。  Vermont社はパパが働いていた会社だ。パパが失踪してから兄の木城裕也と株を買い漁り、取締役会で元社長のVermont.Jrを失脚させ幹部らも総入れ替えした。兄が取締役になり、肩書きだけれどあたしが会長になった。  事業は順調に伸び全盛期の頃の業績まで上りつめた。  その矢先にゲーム『X』の事故が発生した。あたしは兄の指示で『X』を始めた二、三ヶ月で現在のレベルに達した。  そして『X』Worldの世界に飛び込んだ。そこが地獄だとは思っても居なかった。    Vermont社に到着するとエントランスで社員カードをかざし中に入った。エレベーターで最上階まで上がり、取締役の部屋を訪れた。 「お兄さん来ました」 「よう、まあそこに座れよ。何か飲むか?」 「いえ、結構です。早く始めましょう」 「そう急ぐなって」 「いえ、時間がないので」 「南光太郎か?」 「はい」 「彼とは上手く行っているのか?」 「はい。早くしましょう。彼の元に戻りたいので」 「言わずとも知ってるよ。じゃあ行くとするか」  兄は重い腰をやっと上げ会議室に向かった。  兄から情報は入手していた。Vermont.Jrが美幸さん達を誘拐した事、結城真弓が一枚噛んでいる事、光太郎が何かの暗号で意識だけ転送された事だ。    会議室のドアを開けると、Vermont.Jrを筆頭にもと幹部が並んで座っていた。あたしと兄は彼らと対峙して座った。  あたしは彼らを見据え単刀直入に要求した。 「こちらの調査で川島美幸さん、浅海沙知さん、今井絵美さんを拉致した事はわかっています。今日は彼女らの取引で集まったとの認識であってますか。」  彼らは頷いた。 「まず彼女達に合わせて下さい。取引はそれからです」 「よし、連れてこい」  Vermont.Jrが部下に命令した。彼女達が会議室に入って来て、あたしは一安心した。 「浅海さん無事でしたか」 「弓ちゃん、どうしてここに?」 「その話は解決してからにして下さい」  あたしはVermont.Jrを見据えた。 「貴方の要求は何ですか?」  Vermont.Jrはニヤッとして答えた。 「Vermont社の返還及びゲームのsource codeとpasscodeだ」 「Vermont社はあたしと兄で株の過半数以上を保持している以上無理です。source codeとpasscodeは、先に彼女達を解放したらお渡しします。良いですか」    Vermont.Jrは部下に顎で指示を出してあたしを見つめ言った。 「source codeとpasscodeを渡してもらおう」  あたしは彼らにsource codeとpasscodeが入っているdeviceを渡した。彼はsource codeとpasscodeが正しいのを大画面で確認すると、素直に彼女達を解放してくれた。浅海さん達は私の隣に座った。  すると兄が席を立ち私を見るとニヤッと笑った。そしてVermont.Jr側の席に向かった。 「お兄さんどうして?」 「それはこれを見てからにしてもらいたい」  彼が指を鳴らすと結城真弓が会議室に入って来て兄の隣についた。  浅海さんがリモコンのボタンを押すと、投影用のスクリーンが降りて来て部屋が暗くなるとプロジェクターが作動した。プロジェクターが発する白色灯を隔てて兄の横顔が見える。兄とあたしの関係を隔てているようで悲しみが湧き起こってくる。 『いけない。危うく泣いてしまうところだった。今は泣くところではない』  あたしは気を引き締めてスクリーンを見つめると鬼神化した光太郎が階段を登り重厚な扉の前に立ったところだ。  彼が重厚な扉を開けると画面が切り替わり、玉座に座り肩肘をついている男性の後ろ姿越しに光太郎が映し出されている。  その男性は言った。  「ようこそ玉座の間へ。そして初めまして」  あたしはハッとし席を立った。  この声をよく知っている。いやよく知っていた声だった。 「弓落ち着けよ」  兄が言った。彼は落ち着いていて何故か楽しそうに思えた。  あたしは座った。気が動転している。あたしは手を上げた。浅海さんが「どうぞ」と言い私を見つめている。 「この映像は合成ですか?」 「いえ、本物よ。生放送ですもの」  あたしは席を立ちスクリーンの前まで行くと後ろ姿が映し出されている頭を腕を触った。  光太郎の背後からのアングルに画面が切り替わった。真っ正面から映し出された父の姿があった。画面がzoomして行き父の上半身が映し出された。 「パパ」  あたしの目からは涙が溢れて来た。  そして、 「何故、パパがあの世界にいるの?」 「それは全て終わったらな。source codeは投入終わったか」 「はい。セキュリティの解除も完了しました」  オペレーターらしき人がしきりにキーボードを叩いている。 「それでは開始しろ」  兄がオペレーターに指示を出すと、スクリーンに映し出されている場所が城から広野に変わった。  「よしっと、時間が経てば『X』Worldは現世と融合する。楽しみだな」 「どう言う事ですか?」  満足げな兄をねみつける。 「現世と『X』Worldが融合すれば、この世界はMonsterと共存する世界になる。Monsterと人間のどちらが生き残れるのか実物だな」 「馬鹿げている」
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