第18話 魔王-木城貴教-

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第18話 魔王-木城貴教-

「貴方は木城さん、弓…さんの」 「ピンポン」  彼はおちゃらけて言った。 「そう。木城裕也の父であり、久米弓の父でもある」 「何故貴方がここにいる?」 「俺も知らん。南光太郎、君のようにいつの間にかここに居た。ここに来た当時は生きるためにMonsterを討伐していたが、強くなっていくうちに討伐するのが楽しくなってね。更に強くなりそして進化の道を得たんだよ」 「現世に帰還する道を選ばなかったのは何故ですか?」 「帰還?」  彼は首を傾げている。 「はい、元の世界に戻る道です」 「元の世界に戻ってどうする。皆んな仲良くしてくれと頭を下げるのか?俺は嫌われ者だ。今更戻ってどうすると言うんだ」 「そんなの分かりませんよ。貴方を好きな人もいるかもしれない」   彼は鼻を鳴らした。 「それで。この場をどうするんだ」 「どうすると言うのは?」 「こう言う事だ!」  玉座に座っていた彼の姿が消えて、お腹に強力な衝撃を覚えると、僕のお腹に彼の拳が突き刺さっていて、僕はくの字に曲がっていた。 「ガハッ」  血の混じった唾を吐き出し、彼を上目遣いで見ると彼はにやけていた。  更にもう一発くらい。その場に倒れた。 『光太郎、光太郎逃げて!』  どこか遠くで弓の声が聞こえたような気がして。意識は立とうとしているが身体が言うことを聞かない。 「期待はずれだなぁ」  彼は顎に指を当て僕の周りをうろうろしている。 「そうだ!良い案が浮かんだよ」  僕は彼をね見つける。 「おい、裕也」 『あんたに呼ばれたくねえよ』 「こいつとの激戦を期待しているんだろう。言うことを聞けよ」 『なんだよ』 「弓を襲わせろ。殺しても良い。そうだな…ゲホッ」  僕は弓がここでリンチにあっていた時の記憶が蘇った。 「おい、やめろよ。弓に指を一本も触れるな」  僕は何発も彼に拳を叩き込んだ。 「こんな攻撃が通用すると思っているのか?」  彼の拳や蹴りが僕の骨が砕き、内臓が壊れる。 「ゲホッ、ゲホッ」  彼は僕の顔を踏みつけスクリーンの向こうにいる木城裕也に話しかけている。 「薄汚いやつが良い。薄汚い奴が。おもちゃにでもしてやれ。それと、弓をzoomupしろ。弓が汚される姿を見せつけてやれ!」 『ちょっと、や、やめて、やめて。光太郎助けて』 『弓ちゃん!』  スクリーンの向こう側では、弓の服が脱がされて行き、美幸達の頭に銃口が向けられている。  僕は…  気がつくと見知らぬ部屋だった。白色灯が淡く光り、幾つかのベッドが並んでいて、ベッドには何人か寝かされていた。   『思い出した。見知らね部屋ではなかった。学校で倒れから暫くして、ここに運ばれて来た事を無意識の内に記憶していた。弓だ。弓がここに連れてきてくれたんだ』  僕は天井を見上げて動いた。  ……  僕が立っているこの場所は建物の最上階にある会議室の扉の前だ。 「刑事さんですよね。中にいる人達を早く捕まえて下さい」    僕は会議室のドアを開けて、弓の上に追い被さっている薄汚いやつの首を落とした。 「弓、弓」 「光太郎。あたし、あたし」 「ごめん、本当にごめん」  僕は来ているガウンを彼女に羽織り、木城さんをね見つけた。 「貴方って人は…」 「光太郎!」  声のする方を見ると美幸だった。 「美幸ありがとう。少し弓を借りていく」  会議室に警察が突入して彼らを捕まえている中、僕は弓を抱き抱え会議室を後にした。  地下にあるLaboに戻り、僕が寝ていたベッドに入ると 「防御壁、不可視化」  外部からは入ることも見ることもできない空間を作り弓と二人だけの世界にした。 「弓、弓」 「光太郎、ありがとう」  弓は震えている。目からは涙が流れている。 「ごめん。僕が弱いからいつも辛い思いをさせてしまって」 「光太郎」  暫く彼女を強く抱きしめた。 「弓?大丈夫か?」 「うん。助けてくれてありがとう」 「うん。弓お願いがある」 「うん?」 「あのぅ、なんて言うか」  こう言う時なんて言うか知らない。必死に言葉を探した。弓が僕の瞳を見つめ僕も弓の瞳を見つめる。そして唇を重ねた。  彼女は微笑んだ。 「正直にあたしを抱きたいって言えば良いんじゃないかな」   彼女の恥じらんだ顔が可愛い。 「えっと、こう言う状況でごめんだけど、弓をすごく抱きたい。抱かせてほしい。良いかな?」  弓はゆっくり頷いた。 「弓」 「光太郎」  重なった唇は甘く僕の心を清らかにしてくれる。お互いに愛する事で新たな命を生み出す。 「弓、ありがとう」 「あたしこそ嬉しい。やっと貴方と結ばれて幸せ」  僕達は暫く抱き合った。  僕は弓の頭を撫でていて、弓の髪がサラサラして心地いい。 「弓」 「何?」 「お父さん、救いたいよな」 「うん。できるの?」 「わからない。説得してみる」 「お願い」 「弓に一つお願いがある。多分弓のお母さんだと思う人が、彼の脳裏を過っていて、彼を救うのに大切な人だと思う。ここに連れてきて貰って、彼の手を握って呼び続けてほしい。できるかな?」 「うん。できるよ」 「ありがとう。眠くなってきた。少し寝るね」  遠くで僕や弓を呼ぶ声が聞こえた。  目が覚めると、木城貴教は壁に埋もれていて、僕が彼の頭を押さえつけていた。 「こんなんで俺を殺せると思うなよ」  彼の肌の色や形が変化して行った。僕は何発も拳を叩き込んだが、叩き込んだ拳を全て抑えられた。 「手が四本?」  進化した彼の姿は肌が黒くMonsterのようにゴツゴツした皮膚に腕が四本あり、怪獣のように脚が太く、獣のような顔つきに爬虫類の様な不気味な目で僕をね見つけている。長い耳の前に二本、鼻の上に一本の角が生えていた。 「化け物」  僕はポツリと言った。 「よいしょっと」 瓦礫の下から這い上がり立ち上がると人間の体より1.5倍大きい。  彼は四本の手を腰に当てポーズをとった。 「かっこいいだろう」 「どこが?」 「普通、魔王ってのは筋肉もりもりで、人間と同じ体つきで凛々しい顔をしているものですよっ!」  僕は拳や蹴りを何発も入れているが、四本の腕で交わされる。後ろから気配を感じ飛び退くと、床から尻尾のような物が僕に向かって来ていた。それは一旦床に引っ込むと彼の体に戻った。 「触手だ」 「触手?」 「まあいい。早くかかってこい」  僕は全速力で彼に突っ込み拳を叩き込んだが、彼の眼力で飛ばされた。
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