第19話 世界の果て

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第19話 世界の果て

 ズドド、ズドド、バーン。  攻防戦が続く。 「もう右腕が使い物にならない」 「南光太郎、観念しろ。お前の負けだ」    後がない。弓のためにも勝たねば。    その時閃いた。  木城さんが言っていた。勝者のみ現世に戻れると。 『ここで僕が死ねば弓のお父さんが現世に戻れる』 「かけるか」  僕は残りの魔力を全開放した。 「うぉー」  魔力値が上がっていく。少しは回復出来たようだ。 「ここで気合いを入れたと言うことは完全敗北を望むのか?」 「そうかもしれませんね」 「バカな真似を!」  拳がぶつかり合い、蹴りや魔法をぶち込む。ぶつかりぶつかり合って、光太郎が倒れる瞬間、彗星の如く現れたのは美幸だった。 「おっと、危ないところだったわ。一旦回復をかけるね」  化け物となった木城さんニヤッとした。 「そんなこと言っている場合か?」 「大丈夫よ。強力な防御壁があるから」 「おい女そこをどけ!」  彼の拳が美幸の防御壁にぶつかるがびくともしなかった。彼は力尽くで防御壁を壊そうとしている。 「びくともしない。それでは、暗黒波」 渦を巻きながら闇が襲ってくる。美幸の防御壁を渦が吸い込もうとしているが効果がないようだ。 「うるさいハエね。ライジングクラッシュ」 雲が集まって来て雷を発生させた。雷は彼に直撃したがびくともしなかった。 「あれじゃダメか」 「やつの皮膚は鋼鉄並みだ。雷は通さない」 「そろそろ大丈夫?」 「ああ、助かった。ありがとう」  美幸は僕を見て微笑んだ。 「お前、勇者だったのか」 「そうよ。遅くなってごめね」  美幸はそう言うと背中の双剣を引き抜き 「よし行くよ。でやぁー」  美幸は彼のパンチや触手の攻撃を交わしながら、二本の剣で攻撃していく。 「僕も助け立ちするぜ」  美幸は前から僕は後ろから攻撃をし、少しずつ彼にダメージを与えていった。  彼の皮膚が崩れ始め、動作スピードが遅くなった。 「今よ。ライジングサンダー」  雷が美幸に落ち双剣が雷を吸収して行く。 「ライジングソードよ」  美幸が双剣を振るごとに電気が発生して彼の皮膚を更に傷つけていく。そして彼の腹に双剣を突き刺した時に彼は膝をついて倒れた。 「やったわ」 「美幸、ちょっと待て。彼はまだ死んでいない」 「とどめだ。ファイアーボール」 「ライジングサンダー」 「ウォータースラッシュ」  反応がなかった。 「今のうちに魔王と木城さんの精神を分離して」  僕は呪文を唱え始めた。  美幸は双剣を背中の鞘に戻し、腰に刺している大剣を引き抜いた。彼女は大剣を振り上げた。 「美幸、その剣は?」 「聖剣よ」 「おい、それを振り下ろしたらやばいんじゃ?」 「ええ、だから光太郎も早く現世に戻って」 「まだ、木城さんの精神も分離できていない」 「だから早くって」 「これ振り上げ切ると私の意思に反して勝手に振り下ろされるのよ」 「マジか」  僕は呪文を唱え続けるが、彼の反応がない。  すると木城さんの体が宙に浮かびそのまま空高く飛んでいった。  僕も美幸も空を見上げると、彼の体が爆発して現れたのは人間の形をした魔王そのものだった。 「ついに聖剣が上がってしまったわ」 「えっ」 「浄化」  聖剣から眩しすぎる光が発せられ大きくなっていく。 「木城さん逃げて。あの光には僕達魔物は勝てない」 「何をっ!」  彼は光に向かって行った。光に触れ溶けて行く。 「よし。多分大丈夫。木城さん、貴方を待っている人が現世にいます。僕と一緒に帰りましょう」  僕は彼に手を差し伸べた。 「木城さん、見えるでしょ。貴方の帰りを待っている人が」 「弓、紀子…」  彼は光の先から差し出された手を取った。 「木城さん、思い切り飛び上がって下さい」  僕は彼の背中を押した。  浄化の光が迫ってくる。 「美幸は大丈夫なんだよな」 「私には何の影響もないわ。だから光太郎早く現世に戻って」 「そんなこと言ったって」  僕は呪文を唱えるが、浄化の光が迫ってくる。浄化の光に押されてフィールドの端まで押され潰されて行く。  「ゆみー」  後もう少しで手が届くのに。もっと高く飛ばないと。  弓が差し出した指にもかすりはしなかった。  浄化の光は『X』Worldを覆い、全ての生物を消し去った。  ………  弓、君の未来が見えたよ。  可愛い子だ。弓に似てとても可愛い。  そうか。『夢を追いかけていける子』に。  夢と言う名か。  良いと思う。  弓、夢を頼む。  弓…  僕の意識も消え去った。
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