第1話 光太郎のいない世界

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第1話 光太郎のいない世界

 オンラインゲーム『X』事件直後、勾留中の木城裕也と結城真弓の協力を仰ぎ、Vermont社の総力を挙げて現世と『X』Worldの融合を阻止しようとしたが、阻止する事は出来なかった。  しかし、『X』Worldに生息していたMonsterは絶滅し、人間に害を与える生物の存在がいない事で、『X』Worldを放置すると政府から通達があった。  Vermont社は調査班を出動し安全性を確保する事でお咎めなしになったが、『X』Worldを二度と犯罪に使用されない様厳重に管理する事を義務付けられた。   あたしは重役達を集め、人間の未来のためにレジャー施設や住宅を建造して行く計画を立て、計画書を政府に提出し可決された。  そして、世界に『X』Worldの再建に向けた計画を発表した。  各社からオファーがあり企業価値が上がり株価が上昇し、世界トップの企業へ進んで行った。  あたしはその功績が讃えられVermont社の取締役に就任した。仕事と学業をこなして行くことを決意した。  光太郎が浄化の光に飲み込まれてから数ヶ月が経った。 「光太郎、おはよう。今日から光太郎が通っていた学校だよ。緊張するな。ちゃんと挨拶できるかな。友達できるかな。心配だよ。それでも光太郎がついていてくれるからあたし頑張る。帰って来たらまたくるから待っててね」  毎日、地下にあるLaboに寄り光太郎に話しかけ一日を始めている。  光太郎にキスをして「行ってきます」と言い、学校に向かった。  学校に着くと職員室に寄り先生方に挨拶をした。  ……… 「おはよう」 「おはよう」  私が席に着くと隣のクラスの沙知が私のところにやってきた。 「美幸、朗報だよ」 「何?」 「転入生だって、頭が良くて美人らしい」 「そう。沙知、どこからそう言う情報を入手してくるのよ」 「ひみつ」 ガラガラと教室の扉が開き担任が入ってきた。 「沙知早く戻りなよ」 「へいへい。ちゃんと紹介してよね」 「は〜い」 「今日はホームルームの前に転入生を紹介します。久米さんどうぞ」  教室に入ってきたのは弓ちゃんだった。 「初めまして、駿河大附属高から転入してきた、久米弓です。よろしくお願いします」  弓ちゃんは丁寧にお辞儀をした。 「久米さんは家庭の事情でこちらに引っ越して来ました。みなさん仲良くしてあげて下さい。席は南君が当分休みになるので、とりあえず南君の席について下さい」  私は手を上げた。 「せんせ〜い。はい、はい、はい」 「川島どうした」 「美幸」 「川島さんどうしましたか」 「久米さんをわたしが案内しま〜す」 「そうですか。川島さんよろしくお願いします」  私は教壇に上がり弓ちゃんをエスコートした。  中休み。  他のクラスからも大勢集まって来て弓ちゃんは質問攻めにあっていた。 「ゆみちゃんだったかぁ。噂通りだったってわけね」 「そうだね。私もびっくりしたけれど、気持ちわかるような気がする」 「光太郎君だよね」 「そうだよね」  質問攻めから解放された弓ちゃんが、私達の所に来た。 「お久しぶりです。その節はありがとうございました」 「何言ってんのよ。こちらこそお世話してもらったんだから」  ……… 「ただいま。光太郎、今日はいっぱい楽しいことがあったよ。みんな優しくて嬉しい。それとね光太郎の席で勉強するんだ。光太郎を感じちゃうね。それとね…」  あたしは1時間くらい光太郎と話していた。その間、ブランケットや食事まで運んでくれて、気を使わせてしまった。  次の日もまた次の日も光太郎とよく話をした。  私はホームルームの時間を借りてみんなに報告した。 「だいぶお腹が大きくなって来たので、暫く学校をお休みします。元気になったらまた登校するから、よろしくお願いします」  今日はホームルームの後下校した。 「光太郎、お腹冷えちゃうといけないから暫く来れないけど我慢してね」  そして…  光太郎とあたしの赤ちゃんが生まれた。 「光太郎久しぶりだね。寂しかった?貴方とあたしの赤ちゃん産まれたよ。可愛いでしょ。みんなあたしに似ているって言うけれど、光太郎にも似ているのよ。鼻とか笑った時のエクボとか将来が楽しみ。  それでね、名前なんだけど……  『夢を追い続けていけるような子』にしたいから、『夢』って付けたいんだけどいいかな?考えておいてね。それじゃお休み」  次の日、 「寝坊しちゃった。急がなきゃ」  うん?あたしは首を傾げた。 「社長、夢ちゃん泣いてますよ」 「ごめん。今行くから。光太郎、またね」  だいぶ現実がごっちゃになっていた。 「社長、今日二時から会合ですよ」 「えっ、明日じゃなかった?」 「社長!」 「あはは」  夢が生まれてからミスが多くなった。 『こりゃまずいな。仕事も誰かに任せようか』  現状があたしの頭を悩ましていた。
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