第3話 あたしのストレス

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第3話 あたしのストレス

 あたしも来週、調査隊に加わる事になった。役員からは「危険だから」と反対されている。秘書の足立もだが会社に必要とされている事は重々承知している。  でも…  内縁だけれど光太郎の妻だし、女としても彼を捜索したい。彼を感じていたい。  だから…  あのフィールドに行きたい。  あたしはもう泣かないし、前を向いて歩いて行くんだと決めたんだから。 「ねぇ、夢。貴方はどう思う。パパに会いたいよね」  あたしは夢を連れて地下のLaboに来ている。 「貴方。これから学校に行ってくるね。久しぶりだからドキドキしているよ。貴方と夢の側にずっといたいけどそうもいかなくて。ごめんね。学校から帰って来たらまたくるね」  彼の唇に私の唇を重ねLaboを出た。  久しぶりの教室で。 「おはようございます」 「南さんおはよう」 「弓ちゃんおはよう」 「おはよう、弓」 「美幸、おはよう」 「久しぶりだね」 「うん、かなかなこれなくて」 「弓忙しいからね」  中休み。 「弓ちゃん、夢ちゃんの写真見せて」 「「可愛い〜」」 「南さん、俺達にも見せてよ」 「相変わらずの人気っぷりだね」 「沙知。弓芸能人みたい」 「それが弓の魅力なんだよね」  そして、昼休み。 「弓、足立さんお迎えに来てるよ」 「はぁ、もっとゆっくりしていたいのになぁ」 「ねぇ、遊びに行っちゃダメ?」 「全然大丈夫だよ」 「本当!」 「いつでも来ていいよぉ」 「わかった。近い内に行くね」 「それよりさぁ、もうそろそろ光太郎じゃなくて」  美幸が神妙な表情で言った。 「他の人って事?」 「うん」 「あたし一児の母なんだからパパ以外考えられない」 「そうだよね。変な事言っちゃってごめんね」 「いいの」 「じゃあね」 「「バイバイ」」  あたしは、美幸と沙知さんに見送られて学校を出た。  社に向かう車中での事。 「社長、二時から提携先との会議があります。四時から健康診断と4時半からプロジェクトの打ち合わせがあります」 「またぁ会議!」 「しょうがないでしょまだまだ役員たちに任せられないし、お得意様だから社長に出てもらわないと」 「わかっているけど…。ねぇ良い案考えたよ」 「何ですか?」  足立はタブレット端末に目を向けたまま返事をしている。 「あたしのAndroidを作れない?」 「はぁ!何バカな事言っているんですか?」 「だってぇ、あたし何もできないじゃないの」 「貴方は社長です。当たり前でしょ」 「う〜」 「他にはありますか?」 「う〜、あっそうだ。会議はオンラインでしょ。Laboからできないかしら。夢を連れて出席するとか」 「ダメです。赤ちゃん帰りですか?」 「う〜」 『何でもかんでもダメじゃない。あっそうだ。良い事思いついちゃった』  今日のスケジュールがcompleteし、やっと家族での時間が取れるようになった。 「お疲れ様です」 「社長、ようこそいらっしゃいました。夢様可愛いですね」 「ありがとう。ねぇ、ちょっとカーテン閉めても良い?五分で終わるから」 「まあ、五分なら」  医療チーム主任医師の工藤貴文は疑心暗鬼に渋々了承した。  あたしはリモコンでカーテンを閉めると、夢を光太郎のシーツに寝かせて、速攻制服を脱いだ。 「よしっと。光太郎久しぶりの裸だよー」  あたしも光太郎のシーツに潜り込んみ、カーテンを開けた。 「貴方、夢寝返りができるようになったんだよぉ。すごいでしょ。三人で川の字を書いて寝るの初めてだね。これからは毎日しようか」 「社長?何をされるんですか?しかも裸ですよ。彼からが仕事できないってクレームです」  足立が医療チームを指差し厳しい眼差しだ。 「目の保養になって良いでしょう」 「な、何を言っているんですか?社長ですよ」 「はぁ」 「早く服を来て下さい。お兄さんに言いつけますよ」  足立は怖い顔をしたままカーテンを閉めた。 「はい、はい」  あたしは制服を着るとカーテンから顔を出してにっこりした。 「きたよぉ」 「行きますよ」 「どこに行くの?」 「お兄さんのところです」 「あー、足立、兄さんと何かあったらでしょ。ねぇ」 「いや、何もないですよ」 「嘘。顔が赤くなってますよ」  図星のようだ。  兄のオフィスに到着すると夢が泣き出した。ミルクかもしれない。 「作って来ますから、お兄さんと話していて下さい」  そう言うと足立はオフィスから出て行った。 「何かあったのか?」 「うん。また怒られた」 「何をやったんだ」 「光太郎と夢と三人で寝ただけだよ。あたしは裸だけど」 「なるほど」 「何?」  「光太郎とデートしたいんだろう?ゲーム内でデートするのはどうだ」 「えー、ゲーム!」 「何が不満なんだ?」 「手も繋げないんだよ」 「それはそうだが」  あたしは真顔になり尋ねる。 「来週の探索だけどどんなふうに進めるの?」 「一層、二層は調査が終了していて、三層の中頃までは先遣隊が進んでいる。今回は三層のスタート地点から始める予定だ。右ルートをA班、ストレートをB班、左ルートをC班が担当する。お前は俺が指揮するA班だ」 「わかった。トレーニングは必要?」 「体が鈍っているならやっておいた方が良い」 「ありがとう。メニューは作れる?」 「ああ、基礎データを送ってくれたら作っておく。なぁ、俺はお前が探索するのは反対だ。光太郎の生身の身体とスキンシップを取っていた方が良いだろ。その内、中継地点まで転送出来るようにするからその時でも良いんじゃないか」 「うん。あたし足手纏いかな?」 「おそらく」  「わかった考えておく。来週で良いよね?」 「ああ、準備はしておく」  足立がミルクを作って来たので、夢に飲ませてLaboに戻った。  夢は自宅で寝かせて足立が面倒を見ている。あたしは光太郎の手を握って、頭を彼の胸にもたれて彼に尋ねた。 「貴方と話したいよぉ。フィールドに出たら意識の共有ができるかなぁ。光太郎教えてよ」  あたしはいつの間にか寝ていたようだ。主任医師の工藤に起こされ自宅に戻った。
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