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第6話 大切な約束
退屈な役員会を早々に切り上げ、美幸さんと沙知さんを迎えにいく為リムジンに乗り込んだ。
「やっほー」
「「やっほー」」
「美幸、沙知さん、元気してたぁ」
「弓も元気ぃ」
美幸と沙知さんと○✖️駅で待ち合わせをしたあたしは彼女達と合流した。
「弓スーツ似合うー」
「ありがとう」
あたしは社用車のドアを開け、彼女達を通すと二枚目のドアを開けた。
「すっご〜い。いくらくらいする車なの?」
「一日20万円くらいだよぉ」
「えー、20万円!」
「そんなに高いの?私達バスでも良いくらいだよ」
「いいの、いいの。今日は楽しんでもらいたいから」
「会社で払うの?」
「あたしのポケットマネーだよぉ」
「ちなみにお給料はいくらなの?」
「200万円くらいかなぁ、ほとんど光太郎と夢に使っちゃうけど。あっそうだ。初めに光太郎に会いに行く?」
「そうだね。光太郎かぁ、久しぶりだね」
「私もお世話になったからね。どんな顔になっているんだろう」
「まだ数ヶ月だから変わらないよぉ」
あたし達はLaboに向かった。
Laboに到着すると社員証をかざしセキュリティを解除する。
「社長ようこそおいで下さいました」
主任医師の工藤貴文だ。
「今日はお友達連れてきたよぉ」
「管制室にもご案内しますか?」
「お願いします」
あたしは手を差し出し二人を先に通した。
「広いね、ベッドがいっぱいあるけど、急病の人用?」
「うん。転送する人のための設備だったんだけど、今はあの円筒の装置から転送するから、病院のベッド兼用なんだ」
「ちょっと前まで神官の職業の人しか転送できなかったのに。時代の進歩だね」
「あの時は必死だったよね」
沙知さんが神妙な表情で言った。あたしも頷く。
「私は自由自在だったから皆んなの苦労がわからなくて、ごめん」
美幸は勇者だからいつでも好きなところへ転送ができた。
現在のフィールドを案内する時にはきっと驚くだろう。Monsterが徘徊していた当時の『X』Worldに比べレジャー施設を建造するレベルまで安全が確保されている。何は住宅も建設予定だ。
あたし達は光太郎が眠っているベッドまでくると、光太郎はいつもと変わらない寝顔で迎えてくれる。
「光太郎変わってないね」
「うん、当時と同じ凛々しい顔立ちだよぉ」
「あの頃が懐かしく思うわぁ」
「光太郎の手を握ってあげて」
「いいの?」
「きっと喜ぶと思うよぉ」
美幸さんからベッド脇にある椅子に座り、彼の手を撫でるようにゆっくり触れている。彼女の目から一筋の涙が流れた。
「美幸さん」
「美幸大丈夫?」
美幸さんの気持ちがよくわかる。学校の校庭で喧嘩をしてから本人の顔を見るの初めてに違いない。数週間後に出会った時は、彼は鬼神化していて魔王と対峙していた。
あたしと光太郎が出会ってなかったら、きっと、光太郎と美幸さんがカップルになっていただろう。あたしは居た堪れなくなりその場を離れた。
再びベッドに戻った時は沙知さんにかわつまていた。沙知さんの光太郎との思い出は、当時の『X』Worldでの脱出劇くらいだった為、あっさりしていた。
「管制室を案内したらNew Worldを案内するよ」
私の後に続き美幸さんと沙知さんは物珍しそうにあちこち見ている。
「ここが管制室よ」
「すっごーい」
「モニターがいっぱいあるよ」
あたしは主任医師の工藤貴文に指示を出した。
「ここからは私がご案内します」
工藤の説明中に先程のことを思い出していた。あたしは光太郎を無理やり手に入れた。しかも美幸さんが知らない内に。美幸さんに恨まれても仕方ない。それなのに。
あたしは工藤の呼びかけに思考を一時停止した。
「それではNew Worldに案外するよぉ」
New Worldの入口はLaboの奥にある円筒の装置から転送する。『X』Worldの第一章のスタート地点だ。
「一人ずつ転送するから順番を決めよう」
未知の世界に行くのは怖いものだ。
「私先に行く」
手を上げのは美幸さんだ。正義感があり度胸もある。
「じゃあ、次私が行く」
美幸さんに続いて沙知さんが手を上げた。最後があたしになる。
「もしもの場合にはこのパネルの「帰還」ボタンを押してね。今度はあちらの円筒に戻ってくるから」
「えー、これって一方通行なの?」
「違うの。こちらから行く人とぶつかる可能性があるから出口を変えているだけだよぉ」
この転送装置は、転送時に肉体を細胞の単位まで分解して、それをデータにしたものを順番通り送信し、受信側で送信と反対の順番に並べて再構築していく。即ち1から順番に送信したものを受信側では10から組み立てていく。
こちらから見ると頭から消えていき、送り先では足から再生していく。
「それではいくよぉ」
美幸さんが装置内に入るとドアをロックしスタートボタンを押すと転送が開始する。
「次は沙知さんお願いします」
沙知さんも同様に転送し、最後にあたしが転送した。
転送されたフィールドには建設中の半球をしたDomeがあった。そのDomeは森の中央にあり、自然の中で観光者が楽しめる計画だ。
「あの中にアミューズメントパークを建設するんだ。まだ見学は出来ないけれど次回には見学できるかなぁ。楽しみにしておいて」
「「うん。見たい、見たい」」
「森の中で遊べるって楽しそうだね」
「空気が美味しそう」
「現段階ではDomeはそのままにしようかと思っているんだ」
「どうして?」
「あの森には野生動物が生息しているから安全性の為だよぉ」
「そっか、色々考えているんだね」
「うん。安全性が重視される時代だから。そろそろ次に行こうか」
あたし達は早まきで各事業部を見て周り、最後にゲーム事業に行った。
「「貴方は!」」
美幸さんや沙知さんの第一声だった。
「その節はご迷惑をおかけしました」
「どうしてこの人が?」
「そう思うよね。義兄はゲーム業界ではトップクラスなんだ」
「だからって」
美幸さんや沙知さんの言うことは最もだった。
「今は更生しているし、うちの命綱にもなっているから頼りにしているんだ」
「でも…許せないわ」
二人は今にも殴りかかりそうだった。
「そうね。ゲーマーや光太郎をあんなにした張本人だし」
一時沈黙が続いた。
口火を切ったのは美幸さんだった。
「でも弓がいいって言うんだったらいいわ。許してあげる。次にあんなことしたらただじゃ置かないんだから」
美幸さんは強く握った拳を下ろし木城裕也と向かいあった。
私も義兄も頭を下げた。
「美幸さん、沙知さんありがとう。あたしがあんなことさせないから信じて上げて。お願いします」
「弓わかったから。もういいわ」
沙知さんが話題を変えてくれた。
「弓、どれで遊べるの?」
「沙知さん、そうだね。ここにあるゲームならどれでもいいよぉ。これは最新のVRで小型・軽量化したんだ。このグローブをはめれば触覚も楽しめるんだ。遊んでみて」
彼女達が遊ぶ姿を見ていて義兄に対する世間の声はやはり厳しいと実感した。恐らく国や社会に貢献してもその罪は軽くなることはないだろう。
『私も同じだ。今日こそ美幸さんに謝罪しないと』
「あー、面白かったぁ」
「本当、VRも進歩したんだね。次世代ゲーム機に期待しちゃうわ」
二人は満足そうに体験談を語っている。
「この後どうする?ご飯とか」
「ううん。私達帰るわ。ね」
「うん」
美幸さんと沙知さんは顔を見合わせて頷く。
「わかった。駅まで送るね」
あたし達はリムジンに乗り○✖️駅に向かった。
○✖️駅に到着し、あたしはリムジンのドアを開けて、彼女達をエスコートする。
「これお土産です」
「これってさっきのゲーム機」
「うん。まだ、prototypeだけどね」
「いいの?」
「うん、楽しんで。感想もらえると嬉しいな」
「「ありがとう」」
あたしは彼女達に手を振り見送った。
「美幸さん」
彼女が振り返るとあたしは走り彼女に跪いた。
「ごめんなさい。あたし、あたし」
涙がごぼれとめどもなく流れた。
美幸さんはあたしの目線に合わせ腰を下ろすとあたしを抱きしめた。流れる涙は止まらず声を上げて泣いた。
彼女はあたしが泣き止むまで抱きしめてくれた。
「落ち着いた?」
「あたし」
「光太郎の事よね」
あたしは頷いた。
「あたし…無理やり奪ったの。ごめんなさい」
土下座をした。
「弓。顔を上げて」
涙でメイクがぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
「ほらぁ、可愛い顔が台無しよ。それにスーツも。私はね貴方に負けたのよ。恋は戦争なんだから勝ったのは、弓、貴方よ。私は魔王に勝ったけど、恋は貴方に負けた。それだけよ」
「でも…」
「怒られたいの?」
あたしは首を振った。
美幸さんは目を宙にさ迷わせ頷いた。
「約束して欲しいことがあるの」
「約束?」
美幸さんは微笑み言った。
「光太郎を失わないで」
その言葉は、あたしにはとてつもなく長い約束になった。
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