第2話 先人者

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第2話 先人者

「あれー、学校じゃない。ここは何処?」  そこは広い草原でぽつぽつりと大木が生え、大石が転がっていたり、何かの跡地の様に崩れた石の壁がある。  遠くには城の様な建物が見え、風がピューピュー吹いて寒い。 「寒っ。コート着てくれば良かった」  今だにここが異世界だと信じられない。 『異世界転送ってこんな感じなのか』  僕はムクッと起き上がり辺りを見回した。脳裏に浮かんだのは、ついさっきまでプレイしていた流行りのオンラインゲーム『X』第二章のプロローグで流れる草原の光景に似ている。 「確かここがsave pointだったはず」  いわゆるスタート地点だ。向こうに見える城が迷宮で最上階に居る ボスに勝てば二章の一節に進める。 「おい、何故ここが『X』の世界だと思うんだ。そうか、夢だな。美幸に没収されたゲーム機を取り返したくてこんな夢を…」  近くで草を踏む音がして寝たふりをした。  Monsterだったらどうしよう。神様お願い… 「おい、大丈夫か?」    僕は薄めで声のする方角に目を向けた。片膝をつき僕の顔を覗き込む様に見ている。  僕は目を見開いた。 「えっ、Monsterじゃない?」 「ああ、そうか。初心者か」  「初心者って?」 「ここに来たばかりかって事」    僕はアーマースーツ着ている人の手を借り、上半身を起こした。 「はい。今し方来たばかりです。えっー!!ど、どうして、今来たばかりって言ったんだ!」 「初心者は皆そう言う」 「現実世界とこの世界の認識が合っていないんだ。無理もない」  アーマースーツをきている人は立ち上がり僕に手を差し伸べる。 「あの先にアジトがある。一緒に行くか?」 「はい。行きます」    僕は彼の手を取り立ち上がった。彼の後をついていく。 「一つ聞いてもいいですか?」 「答えられる事ならな」 「あのぅ、この世界に来る前、いや直前に何か呟きましたか?例えば、ご愁傷様とか」  彼の目が見開かれた。僕に指を刺している。その指差す方向を見ると僕の足だった。靴先から徐々に薄く、透明になってゆく。  そこで意識が途切れた。  気がつくと見知った天井だった。 「迷宮?」 「おう。気がついたか?」 「貴方は?」 「俺は木城裕也だ。よろしく」  木城裕也は僕に手を差し伸べた。僕はその手を取り立ち上がって握手をした。 「南光太郎です。高一です。よろしくお願いします」 「光太郎って呼んで良いか?」 「はい。僕は…」 「好きに呼べ」 「はい。木城さん。ここは迷宮ですよね?」  木城さんは通路の奥を見据え頷く。 「食料はどうしているんですか?」 「アタッカーが狩に出ている」 「Monsterが主食ですか?」 「ああ」 「それと装備品は市場や道具屋で買うんですか?」 「ごめん。説明してなかったな。光太郎は『X』歴どれくらいだ?」 「初期からやっています」 「わかった。ゲームでゲットした装備品やアイテムは引き継いでいる。ゲームの中でのキャラがそのままになっている」 「じゃあ、女性でプレイしていたら、その格好に?」 「それは違うみたいだ。あくまで現世での容姿で、設定したキャラに置き換わっている」  僕は首を傾ける。 「オッホン、つまりだ。引き継がれるのはゲームで設定した職種に装備品やアイテムだ。キャラは引き継がれない」 「よかったぁ、僕は僕のままかぁ」 「お前、キャラは女性だったのか?」 「いや…」 「察するよ。俺もそう言う時期は有った」  しばらく沈黙が続き、木城さんが口火を切った。 「もう一振りしようぜ」  彼は何故かニッと笑った。 「光太郎強すぎだ。レベル幾つだよ」 「80です。木城さんだって」 「そんなこねぇよ!。アイテムもかなり集めたからアジトに帰ろうぜ」 「はい」
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