第8話 夢とスキンシップ

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第8話 夢とスキンシップ

「おはようございます」 「弓ちゃんおはよう」 「南さんおはよう」  あたしは自席に着き美幸さんに挨拶する。 「美幸さんおはよう」 「弓おはよう。会社見学楽しかったよ。ありがとう」  あたしは彼女の帰り際の出来事で無意識のうちに距離を置こうとしている。 「いえいえ、遊びに来てくれてありがとう。また何かあったら言ってね」  自分でもぎこちなかったと思っているが、そうそう意識を変えることはできない。 「それとゲーム機ありがとう。楽しんでプレイしているわ」 「それは良かった」 『ダメだぁ。どう付き合えばいいのかわからない』 「弓、お願いがあるの」 「お願いって?」 「うん。弓に内緒で皆んなに会社での出来事を話してしまったの。そうしたら皆んな行きたいって言い出して。皆んなを招待する事できる?」 「即答はできないけれど。会社で話してみる」 「ありがとう」  あたしも美幸さんも授業の準備を始めその後の会話は無くなった。  授業は何なりと進みお昼休みになった。 「いつもの事ながらごめんなさい。また明日よろしくお願いします」  壇上で挨拶をし教室を出た。    今日は沙知さんの都合が悪く、美幸さんと校門までの道のりを並んで歩いている。 「弓」 「うん」 「気を遣っているよね。会社見学の後の事だよね」 「うん」  あたしは美幸さんの顔をまともに見れず俯いて歩いている。 「この間の事は気にしないで。あんなふうに言ってしまったけど、弓に負担をかけるつもりはないの。弓の判断で光太郎をどうするかは決めて」 「うん」  俯いたまま頷く。  結局何も言えず社有車に乗り会社に向かっている。 「社長、元気なさそうね」 「うん」 「喧嘩でもしたんですか?」 「ううん」  何も言えない。  会社に着くと夢を抱きLaboに向かった。夢はぐっすり寝ている。 「大きくなったねぇ。ママ大好きだよぉ」  最近ハイハイができるようになった。子供の成長は楽しみだ。毎日日記を書いている。 『今まで日記をつける事はなかったんだけどね。成長記録だねぇ』  Laboのセキュリティを解除し中に入った。誰も居なかったが、監視室から工藤が降りてきた。  あたしは口に人差し指を立て小さな声で「しー」と言いベッド脇にある椅子に座った。夢を光太郎の横に寝かせて彼の手を握った。 「はぁ」    今日は何度目のため息だろう。  部下の扱いは慣れてきたが、友達付き合いは一向に慣れない。またため息を吐いた。  明日はフィールド調査の日だ。ため息を吐いている場合でない事は100も承知だ。 「どう付き合っていけばいいんだろう」  彼女に言った事は後悔していない。でも・・自己満足だったのかもしれない。あたしは頭を抱えてベッドに突っ伏した。  夢が寝返りをうとうとしてあたしの頭が邪魔でうまくできず、あたしの頭を叩いているので、目が覚めた。 「あたし寝ちゃった見たい。夢ちゃん起きたのぉ、ヨシヨシ」  ベビールームに連れて行きボディタッチをした。「キャハハ」と喜んでいる。 「夢ちゃん、夢ちゃん、だ〜い好き」  ほっぺにキスをしたりすりすりしたり高い高いしたり。可愛いすぎて止まらない。 「夢ちゃん、ハイハイだよぉ。こっちおいで」  一二歩目はゆっくりだがだんだん早くなり、あたしの所にたどり着くと夢を抱き抱えあたしは転がり左右に揺れる。夢の顔をあたしの顔に近づけおでこにキス。  夢はハイハイしたいらしくあたしの顔をパシパシ叩いた。 「夢ちゃん痛いよぉ」  夢と遊んでいると悩んでいたことも忘れられる。  おっぱいを上げオムツを交換すると夢は寝てしまった。あたし横になり目を閉じたら夢の世界に入ってしまった。  目が覚めたのは16時だった。会議があったのを思い出し夢を抱っこしてベビールームを出ると、工藤がメモを持ってきた。  目を通すと今日は役員で会議をするからゆっくりして下さいとのこと資料は会議終了後タブレットに送ると書いてあった。  あたしは再び夢とベビールームで寝ることにした。
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