第9話 フィールド調査

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第9話 フィールド調査

「全員整列!」    声高々に上げているのは義兄の木城裕也だ。 「点呼開始!」  先日の会議室で一悶着あった今庄さんが義兄の前に走って来て敬礼をした。 「A班5名準備完了!」 続いてB班、C班の報告があり全員準備が整うと、義兄はあたしに目配せをした。 「本日は社長がA班に同行する。A班、命に替えても守りきれ。いいな!」 「「「「「はっ!」」」」」 「それでは社長お願いします」  義兄は一歩退きあたしに場を譲る。  あたしは一歩前に出て各隊に敬礼をし、見まわした。 「本日、フィールド調査に同行致します。皆さんの努力により会社に大きな力を与えてくれています。ありがとうございます。現時点でフィールド1の建設が開始し、フィールド2では地盤の調査に取り掛かっています。今回調査をするフィールド3の調査が完了次第、建設地の確保をして行きます。フィールド3までが会社にとって重要です。皆さんの力をお貸しください。よろしくお願いします。フィールド3の調査状況は総隊長から話をうがっています。あたしの目でも確認して今後の事業計画に役立てたいと思います。本日は宜しくお願いします」  あたしは一礼をし一歩退いた。  義兄が一歩前に立ち敬礼をした。 「社長がおしゃる通り、このフィールドが重要になる。しっかり調査しろよ」  「「「「「はっ!」」」」」 「出発は0930《まる・きゆう・さん・まる》だ。解散!」  あたしは今庄さんと今野さんのところに行き挨拶をした。 「やっほー」  二人は顔を見合わせて小声で言った。 「「やっほー」」 「この間はお疲れ様。今日は宜しくね」 「「はい!」」  あたしは小声で聞いた。 「式はいつにしたの?」 「えっと、今日の調査に集中していましたので、何も考えていませんでした」 「そっかー、日取りが決まったら教えてねぇ」  三班に分かれて調査を開始した。  あたし達A班は右手の森の中を進んで行った。先頭が総隊長の義兄、その後ろに和田さん、今庄さん、あたし、今野さん、最後が吉田さんの順に進んで行く。先頭の義兄が草を薙ぎ倒してくれるので草に絡まずに進めて大助かりだ。  20分くらい進むと100m先位に生物が居るのがわかった。  あたしは今庄さんにその事を伝えた。  今庄さんから和田さんに、和田さんから義兄に話が伝わり義兄の合図で小隊の進行が止まり、和田さん、今野さんが前に立ち、吉田さんが後ろ向きに立った。 「その生物はどんなだ?」 「形ははっきりしてないけど熊みたいに大きかったわ」 「そうか。後は大丈夫か?」 「後ろにはいないみたい」  あたしは右横に視線を向けるとこっちに向かってくる生物を察知した。 「右側からな何かがくるわ。来たっ!」  熊が猛突進でやって来た。 「今庄、今野!社長を守れ!」 「えいっ」  掛け声と共に瞬時に手にした杖でビームを放った。そのビームは突進して来た熊の顔に直撃し、熊は後ろに飛ばされた。首以上はなくなっていた。 「やったぁ、クマさん倒したよぉ。いえい、いえい」  ダンスをしていると今庄さんと今野さんが困った顔をして、義兄は顔に手を当てている。他の人も同様だ。  今野さんは他の隊員なら怒鳴っていただろう。あたしに優しく言った。  「あの、社長?クマさん倒しちゃダメなんです」 「えー」  あたしも困った顔をしてオロオロしている。  今庄さんがフォローを入れてくれた。 「社長、クマさんにお祈りしましょう。ごめんなさいって」 「うん。ごめんなさい」  あたしは手を合わせてお辞儀をした。 「弓、今度はなしだぞ」 「はい」  しゅんとなるあたしに今庄さんは慰めてくれているが折れそうな心を回復するのに時間がかかった。  更に進みキャンプ地迄後少しの所でまた察知した。あたしは今庄さんに伝え杖を持った。  今庄さんが和田さんと列を入れ替え義兄と話している最中に、あたしは「えい」と掛け声と共に魔法を発動し察知した生物を捉えた。  あたしの前の三人が一斉に振り向いた。あたしは目を逸らし杖をしまった。 「弓、説明しろ」 「は、い」  またやらかしてしまった。 「前にいる生物を捉えただけです」 「俺が指示を出してからだ」 「は、い」  あたし達はあたしが捉えた生物の場所に行くと、草の根でぐるぐる巻きにされている虎が横に倒れていた。 「これも回収ですね」 「そうだな。回収班に連絡しておく」  今庄さんと義兄が話していた。  そこから30分くらいでキャンプ地に着くとあたしはプレハブ小屋の椅子に座り背もたれに背を預けた。    「疲れたぁ」  精神的にだ。 「あたしには向いていないな。はぁ」  最近ため息が多くなった。目を閉じうとうとしていると今野さんが声をかけて来た。 「社長、飲み物は飲みますか?」 「いえ、大丈夫です」 「それでは10分後に帰還します」  今野さんはそう言うとプレハブ小屋を出て行った。またうとうとしていると今野さんが声をかけて来た。 「社長、お時間です」  あたしは頷き席を立ってプレハブ小屋を後にした。 「今野よろしく頼むぞ。弓は帰還したらゆっくり休め」  義兄はそう言うと再び今庄さんと話し始めた。 「社長、帰還ボタンを押して下さい。私もすぐに帰還します」  あたしは帰還ボタンを押した。  Laboに到着すると主任医師の工藤が待っていた。 「社長、お怪我は?お身体はどうですか?」  心配してくれる工藤に涙がこぼれそうになった。 「社長、何かあったんですか?」  その時、今野さんが帰還した。 「社長、帰還しました」 「お疲れ様」 「工藤医師、社長の整体チェックの結果を報告して下さい」 「あっ、今からやります」  いそいそと準備を始める工藤医師を横目に 「何をやってるんだか」  小言を言い今野さんは呆れている。  「社長、こちらのベッドに横になって頂けますか?」 「うん」  工藤医師から指示があり、あたしはベッドに横になった。  ベッドの周りをカーテンで目隠しし、女医が検査用器具を取り付ける。  検査項目は心電図、脳波、心拍数、脈拍、血圧だった。異常は無いらしい。 「今野副隊長、社長の整体チェックで異常は見つかりませんでした」 「了解しました。引き続き様子を見ていて下さい。ご協力に感謝します」  今野さんはあたしに向き合い敬礼をした。 「社長、それでは一旦フィールドに戻ります。ゆっくりお身体をお休め下さい」 「わかった。気をつけてね」  あたしが小さく手を振ると、今野さんは敬礼をしたまま姿を消した。    あたしはLaboを出て、夢を連れに自宅に戻った。  夢の顔を見てホッとした。 「ママまた失敗しちゃった。ママダメだね」 泣きたいのを我慢して夢を抱きしめた。
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