第12話 社会科見学

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第12話 社会科見学

 役員会議の後、あたしと義兄は自室に向かう為に並んで歩いている。 「弓、さっきのパソコン教室はなんだ?」 「悪いの?」  義兄は顎髭を触りながら横目であたしを見ている。  あたしは頬を膨らませ目を逸らす。 「売り上げは少ないけど一人分の給与くらいにはなるわ」 「どうやっていく気だ」 「さっき話たけど、まずは社会科見学で生徒を募集するのよ。後は口コミかな。無駄な広告料をかけるつもりはないわ」 「まあ、良いけど。誰が講師を務めるんだ?」  あたしは小さく指を刺した。 「俺か?」 「兄さんしかいないでしょ」 「上手く使いやがって」  「仕方ないじゃない。け、い、ひ削減」  義兄は仕方ない顔をして、コクリと頷いた。 「それで、社会科見学はどうするんだ?」 「まだ学校側は通してないけど、案内役は広報に任せようかと思って」 「お前はどうするんだ?」 「生徒として参加しようかと思って」 「アホ」 「アホって何よっ!」  膨れた頬を更に膨らまして、早足で取締役室に入った。 社会科見学当日。 「ようこそお出で下さいました」  案内役の櫛菜月がVermont社一階ロビーで都立南小金井高一年生の生徒達の前に立ち説明を始める。補佐にベテランの井出達也がつきそっている。あたしは生徒役として参加した。  櫛菜月の淡々とした説明も良いが笑顔が足りない。あたしはチェックシートに記入した。 「これからNew Worldをご紹介します。勝手のオンラインゲーム『X』2を改良しアミューズメントパークを作りました。…」  彼女の一通り説明が終わると見学に進んだ。Laboの奥にある転送室に一クラスずつ入り転送を開始した。  フィールド1の整備はほぼ完成している。  傾いていた観覧車を完全に撤去しうさぎハウスを作った。ジェットコースター、ゴーカート、メリーゴーランド、お化け屋敷、アトラクションスペースを作り、飲食店、ファション店等を遊園地に隣接した。  今後はジム、プール、入浴施設も計画していく。動物園は周りの森を整備して野生の動物を楽しんでもらいたいと考えている。  今の所建設する予定はない。  あたしは美幸さんと沙知さんと園内や近隣施設を見て回った。うさぎハウスの前まで来ると美幸さんも沙知さんもケージの前で腰を下ろし、近寄ってくるうさぎに金網の隙間から指を入れ撫でようとしている。 「「可愛い」」  あたしと同意見だ.  うさぎハウスを作った理由は、うさぎに囲まれて過ごしたい夢があった。  幼少期からうさぎが好きで飼いたかったのだけれど、母に世話がどうのとか飼うスペースがどうのとか、しまいには「誰がお金出すの」と言い始め、あたしは断念した。  ハウスで飼ううさぎは大好きなネザーランド・ドワーフにしたのだ。    うさぎを見て目を細める二人だが、沙知さんは犬派らしい。美幸さんも別段うさぎが好きと言うわけでも無いけれど可愛いものは可愛い。  そう可愛いものは可愛いが女の子なのだ。 「中に入る?」 「えっ良いの?」 「沙知さんもどう?」 「じゃあ入ろっかな」  あたし達はうさぎハウスに入り、うさぎを抱っこしたり、頬ずりをしたりして、可愛いものを思いっきり堪能した。うさぎがストレスにならない程度に。  生徒達はそれぞれ楽しんだようだ。  フィールド1の見学を終え、Laboに戻るとピックアップした部署を案内して、最後にゲーム事業を案内した。  ゲーム事業では今日のために大画面を使って新作のデモンストレーションをやっている。  生徒達の目がキラキラし始めデモンストレーション機で遊んだり、ゲーム機で遊び始めた。  一通りの生徒が遊んだのを見計らって、あたしがパソコン教室の案内をした。 「みんな聞いてー」    生徒達の注目が集まる。 「パソコン教室を開きたいと思もうんだけどみんなどうかなぁ。やってみたい人いる?」  友達通し隣通しで顔を見合わ数人手を上げると、つられて手を挙げる人が増えてきた。  あたしは櫛菜月に指示をしチラシを渡した。 「興味があったらあたしに話してー」 「わかった」 「了解」  ………  社会科見学は無事に終わり、みんなを見送ると夢を連れてLaboに行った。 「光太郎、新事業始めるよ。パソコン教室なんだ。今日はね、南小金井高の一年生の社会科見学を利用して、フィールド1を見てもらったんだ。色々な部署も見学して、ゲーム事業も。みんな目をキラキラして楽しんでた。そこでパソコン教室の話をしたの。まだ少ないけれど、将来うちで働いてもらう人材を作りたくて頑張るつもり」  いつものように夢を光太郎のベッドで遊ばせている。  光太郎に乗っかったり顔を叩いたり楽しそう。 「夢には色々なことをさせたい。やらせるのでは無くてやりたい事を全てやらせたい。あたしも頑張らなくちゃだよね」  あたしは夢を抱っこして 「ベビールームでママと遊ぼうか」  あたしと夢は遊びながらいつの間にか寝てしまった。
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