第16話 木城裕也の思うところ

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第16話 木城裕也の思うところ

「吉田、オープンセレモニーの招待客リストできたか?」 「はい。データ送ります」  タブレット端末に送られてきたデータを見るとある事に気づいた。 「これってうちの社員も含まれているのか?」 「はい。僕も申し込みましたー」 「お前アホか?一般客を招待するのに社員を入れてどうする。で、応募した社員はどれくらいいるんだ」 「一握りですよ。なんせ二万人以上の申し込みがあったのだから」 「全データを俺に回せ。それと社員を抜いてリストを作り直せ。わかったな」 「は〜い」  吉田の抜けた性格を補正しないとダメだな。  吉田から入手したデータを基に応募した社員を割り出した。それを弓に送ると意外な回答が来た。 『あたしね。オープンセレモニーの前に一週間、社員を招待して「お疲れ様会」みたいのをやりたいと考えているの。だから一週間で社員全員の割り振りをお願いしたいの。それとあたしの学校の友達も招待したいから一緒にデータを送ります。招待用チケット案も送ります。それとね、今庄さんと美希さんの結婚パレードもしたいの。計画してもらって良い?よろしくね』 「長ったらしい返事をよこしやがって」  独り言を言い、社員データから一週間分の割り振りをまとめ、予備日に今庄と今野のパレード?の日程を入れたリストを弓に送った。 『ありがとう。これで良いわ。あたしから全社員にメールしとくから返信が来たら招待用チケットの作成をお願いします』 「まあ、任せるか」  タブレット端末をデスクに置き社員休憩所へ行く途中で買った缶コーヒーのプルトップを開けた。 『社員各位 お疲れ様です。 久米弓です。 皆様のご助力によりフィールド1を公開する事ができました。感謝の気持ちとして、オープンセレモニー開催の前にご招待したいと思い、添付のリストにスケジュールを組みました。業務を調整して是非ご参加下さい。』  スマホに送られて来たメールを読み、残りのコーヒーを飲み干して訓練所に顔を出した。 「「お疲れ様です」」  今庄と今野が駆け寄って来た。 「社長のご好意ありがたく頂戴したします。俺も美希も感謝しています」 「そう言うことは本人に直接言え。それとパレードって何だ?」 「えっと、俺と美希の晴れ姿を皆様に見せたい、いや、見てもらいたくて社長に提言しました」 「いや、何をするんだ?」 「ベンツのオープンカーで回って、その後パーティを開いてくださるそうです」 「わかった。ありがとう。結婚おめでとう。二人とも頑張れよ」  そう伝えると取締役室に向かった。後ろを振り向くと、今庄と今野がついて来ている。 「お前ら何やっているんだ」 「総隊長が直接言えって言うからついて来ました」  俺は黙って歩き出し取締役室のドアを開けると秘書達と目が合い彼女らは首を横に振った。 「今は不在の様だ。お前らは後にしろ」  彼らを残し執務室に入っていくと、自宅の扉が開いていた。中を覗くと弓が説明書を読みながら奮闘していた。 「何やっているんだ?」 「ベビーカーのたたみかたがわからなくて今頑張っているところよ」 「たたむ必要があるのか?」  「電車やバスに乗るかもしれないじゃない」 「うん?それでもたたんでいる姿を見たことはないけど」 「えっ!たたまないの!」 「ああ、一般のママさん達はそうしているが」 「はぁ、苦労損ね」  弓は取説を投げ捨て夢ちゃんをベビーカーに乗せると鼻歌混じりに執務室を出て行った。 「はぁ、気が重い」  俺も取締役室の執務室を出て弓を追った。丁度、今庄と今野と話していた。今野は夢ちゃんを抱き抱えスキンシップを図っていて、今庄は相変わらず嬉しそうに弓と話している。  弓の執務室で待たせてもらおうと秘書室に入ると 「社長は当分戻らないそうですよ。役員会まで夢ちゃんと社内をお散歩するそうです」  秘書の一人がそう言い「コーヒー入れましょうか」と言ったが、俺は首を横に振り暫くどうするか考え秘書室を出た。  いつのまにか弓とあいつらの姿は無くため息をついて自室に向かった。  自室の扉を開けると弓とあいつらが接客用ソファーに座り勝手に来客用コーヒーを入れていた。 「兄さんどこに行ってたの?」 「ここは俺の執務室だが」 「ごめんね。話が盛り上がったから勝手に使わせてもらっちゃったぁ」  愛想笑いをしている。 「用が済んだろ。出てってくれ」 「えー、たまには賑やかでいいでしょう」 「今庄、今野。仕事中だ、職場に戻れ」  あいつらも愛想笑いをしながら出て行った。 『引退した途端にああなるのか。締めないとダメかもな』 「お前もだ。社内をベビーで歩き回るのはどうかと思うぞ」 「そう。好評だよぉ」 「そう言うことを言っているんじゃない。節度をわきまえろ」 「は〜い」  弓は空返事をし俺の執務室を出ていくとエレベーターホールへ向かって行った。 『最近、社員のだらけ方がやばい』  俺は頭を抱えた。
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