第18話 人は宝物だと感じた日

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第18話 人は宝物だと感じた日

 取締役執務室のデスクで泣きべそをかいている弓に活を入れ話を進める。 「社員食堂での一件はなんだ」 「だってぇ、みんなが励ましてくれたり、慰めてくれたから、握手しただけだよぉ」  弓の意識の低い態度に腹が立ち、また喧嘩腰になった。 「お前なぁ、社内でベビーカーを押したり、無闇に夢ちゃんを連れて社内をうろつくのはやめろ」 「いいでしょ。将来の役員候補なんだから。皆んなも喜んでいるよ」 「そう言う問題じゃない」  弓自体の意識が低いから社員の意識低下を招いているのは明白だ。  今では可愛い妹だ。我儘を聞いて上げたいがワールドワイドで生きていく企業だ。妥協はできない。 「それと今庄と今野のパレードはやりたいんだろ。土曜日はどうだ。日曜日でもいい。クラスメイトも誘えば良い。出席するのは経営陣と彼らの友人のみだ」 「うん。良いよ」 「それとオープンセレモニーと一般公開の運営をもう一度練りたい。明日朝から役員会議を開催したいのだが、お前は出席できるか?」 「学校があるけど」 「わかっている」  弓も出席させて、彼女の振る舞いが正しいのか相応しくないのかを役員会で討議する事にし、明日の会議の準備を始めた。 翌日。  あたしはLaboに寄り昨日の惨状を思い出す。 『社員も会社を出れば一般の人と変わらない。皆んな一生懸命生きている』  あたしは前を向き歩き出した。 役員用会議室。 「おはようございます」 「「「おはようございます」」」 「会議を始めます。今日の議題は?」  義兄がマイクのスイッチをオンにし話し出した。 「今日の議題はオープンセレモニーと一般公開の運営の見直しです」  義兄は立ち上がりわざわざ大画面モニターの脇に立った。  最近、プロジェクターからWi-Fi対応モニターを購入してタブレット端末から直にデータを送受信する方法に切り替えた。  解像度が高いモニターは画像を綺麗に映し出す。しかし、元のデータの解像度が低ければ高解像度の画像を映しても意味がない。    現状はpower pointの資料を映し出すだけなので、文字がくっきり映ればいいと思っている。  将来的には、CADで作成した図面や立体図を綺麗に写す方法を検討していく予定だ。 「その前に社員の意識改革をしていきたい」  義兄はあたしを見て話をしている。 「最近の社員は社長をアイドルに仕立て士気を上げようとしているが、社長とは」 「同じじゃよ。課長以下は社長は雲の上の存在。逆にアイドルの方が愛着が湧くと言うものだ」 「同意見だ。木城君、社長が社員から親しまれているのは知っているか?」 「はい。存じております」  飯島役員が選挙のデータをタブレット端末から送信した。 「立候補してから選挙までのスケジュールだ。立候補者により異なるが、講演会、街頭演説、地域の集まり等に行き、顔と名前を覚えてもらう。そこからがスタートになる。選挙前から地域に密着している議員もいる。彼らは軍隊ではない。人に密着して親しまれるから票を貰えるんだ。殆どの国民が政治の事を理解している訳ではない」  会議室内が静まりパチパチと拍手があがり、次第に拍手の音が大歓声の様に鳴り響いた。 「皆んな」  あたしは涙ぐみながら席を立った。 「ありがとう。あたしはみなさんの事を理解していませんでした。申し訳ございませんでした」  あたしは深く頭を下げた。 「社長、社員の前でお詫びも頭も下げる必要はありません」  あたしは感動しすぎて涙が止まらなくなった。 「社長、次の話題に」  あたしは義兄に、いや木城役員に本題を進める様指示をした。  あたしは取締役に就任してからの事を思い出す。  何から始めれば良いのか解らず四苦八苦していた。  別段頭が良いわけではない。皆んなの意見を聞き無い頭をフル回転させて考えを述べているだけだ。  一つだけ自分で考えた事がある。  あたしは社長としてでは無く、一社員として分け隔てなく、社員と和気藹々としたかった。  会社を運営していくに当たり社員を人として、家族として接したかった。一緒に前を向いて行く事が大切だと思っていたからだ。  あたしがして来た行動が正解だと感じ、改めて皆んなにお礼を言いたい。  ありがとう。 だから、  やはりオープンセレモニーの前に皆んなに楽しんでもらいたい。 「皆さんの意見をまとめます。明日予定通り通り社員公開を開催します。受付を作りQRコードで入場順を決めます。Laboに入れる最大人数枠を20名として下さい。また、待ち時間に子供達が飽きない様ベビールームを活用し、授乳室、2、3歳用が遊べる場所を作って下さい。また、幼児、小学生も遊べる用工夫をしと下さい。ベッドも活用して構いません。よろしくお願いします」  役員会が終わり木城役員があたしの所に来た。 「済まなかった。俺の頭が固かったんだと理解したよ。だからお前の考えを尊重して行く。だからと言って全てを許す訳ではないぞ」 「わかっています。やりすぎの時は叱って下さい。よろしくお願いします」  あたしは執務室に戻り今後の事を考えるつもりだったが、結局夢と遊び一緒に寝てしまった。
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