第1話 目覚め

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第1話 目覚め

 夢は中学3年生を迎え受験勉強に励んでいる。  第二子目は男の子で勇司と名付けた。 誰よりも強く、リダーシップを取れるような人になってほしいと願いその名をつけたつもりだったが、今は思春期なのか気難しく、あたしの頭を悩ませている。  取締役執務室から自宅へ行き来出来るが、子供の成長に合わせて28階フロアから直接出入りが出来るように設計した。  何故かチャイムも付いている。 「ピンポン」  28階フロアから出入り出来る玄関のチャイムが鳴った。 「はい」  テンションが低い声で応答した勇司はモニターに映っている姿を見て顰めっ面をした。 「おはよう。勇くん」 「ちょっと待ってろ」 「は〜い」  勇司は玄関を開け訪問者を招き入れた。 「お母様、おはようございます」 「みかんちゃん、おはよう」 「あ、みかんちゃん、おはよう。毎日ありがとう」 「いえいえ。私が勝手に来ているだけですから」    彼女は弓月みかん中1、勇司の彼女?だ。  勇司としては彼女と思っていなくて、みかんちゃんがしつこいから付き合ってやっているらしい。  28階フロアのカードキーを勝手に渡したのは勇者司だが、側から見ると勇司がみかんちゃんの尻に敷かれている様に見える。 「勇くん、まだパジャマなの。ご飯食べて着替えないと遅れるわよ」 「ちぇっ、朝からうるせぇな」 「ちぇっじゃないでしょ。私が手伝ってあげるから」 「みかんちゃんいつもありがとう。こんな子に育っちゃったから。これからもよろしくね」  みかんちゃんはガッツポーズで答えた。  そんなこんなで南家は朝から慌ただしい。  あたしがいつも付けているイヤリングが光った。工藤医師からの連絡だ。  伊達メガネ改を装着して通信を開始する。 「社長、おはようございます」 「工藤さん、おはようございます。どうしましたか?」 「光太郎様に異変が発生しました」 「えっ!どういう事」 「話すより見て頂いた方が良いかと」 「わかったわ。今すぐ行きます」  あたしはリビングでテレビを見ながら悠長に朝食をとっている勇司と勇司の隣にベッタリ付いてお茶を啜っているみかんちゃんに声をかけた。 「パパに異変があったそうよ。今すぐ支度して新Laboに来てちょうだい。お姉ちゃんはどこにいるの?」 「しらねぇ」  勇司は相変わらず仏頂面で答えた。 「恐らくお姉ちゃんの部屋だと思います」 「わかったわ。ありがとう」  あたしは夢の部屋に行き、ドアをノックした。 「は〜い」  女の子なのでノックしてから入る様にしている。 「夢、パパに異変があったらしいの。早く支度して」 「えっ、パパがどうしたの?」 「すぐ来てほしいそうよ」 「わかった」  夢はメイクの途中でメイク道具をドレッサーに置き、姿見で服装チェックをして一緒に部屋を出た。  玄関にはすでに勇司とみかんちゃんが待っていた。  あたしが勇司を睨むと 「なんだよ」 「まだ着替えてないの?」 「うっせぇ、急いでんだろ。早く行こうぜ」  みかんちゃんが申し訳なさそうにあたしを見上げている。 「大丈夫よ。みかんちゃんの所為ではないわ」  あたし達が新Laboに着くと驚きのあまり腰が抜けそうになった。  光太郎は上半身を起こして目を擦り、また布団に潜り込む動作を繰り返していた。  あたしと夢は駆け寄り光太郎に抱きついた。 「パパ、パパ。私の事わかる?」 「ゆ、めか」 「そう、夢よ」 「パパぁ、グスッグスッ」 「弓、待たせたな。もう少し時間をもらえないか」  光太郎はそう言うと布団に潜り寝てしまった。  勇司は 「オヤジうぜぇ」 と言い、新Laboの入れ口で突っ立っていた。
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