第5話 光太郎を学校に行かせるべきではなかった

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第5話 光太郎を学校に行かせるべきではなかった

 光太郎と夢の入学式。  あたしは気が進まなかったが、親が不在の入学式は不憫だと思い三人で登校した。  学校に到着したあたし達は、入学式を行う体育館に向かった。  体育館に入ると人だかりがあったので、そこへ行くと壁に模造紙が貼られていた。  人だかりの後ろに並び順番を待つ中、あたしの事を知らないのか特に話しかけられる事もなく、模造紙の前に来て初めてクラス分けの掲示だとわかった。  一組から順番に見ていくと、二組に南光太郎、久米夢とあった。   『あれ、夢の性が久米になっている』  何故なのかと考えると、正式に光太郎と結婚していない事に気づいた。 『しまったぁ。バタバタしていて婚姻届を出してもいないし、ご両親に会いにも言っていない』  学校の手続きは足立に任せていた為、戸籍謄本か住民票を提出したのだろう。夢はあたしの戸籍に入っているままだ。  あたしは頭を抱えたくなった。  そんな中、入学式が終わり各教室に移動する事になった。  父兄達とゆっくり歩いて行った。  婚姻届の事で頭の中がいっぱいになり、父兄の誰かに話しかけられたが、適当に返答した為会話内容は覚えていない。  二組の教室に入ると、生徒達はワイワイガヤガヤしていた。隣の子と話していたり、誰かの席に集まり話している姿があった。 『あれっ、光太郎と夢の姿が見当たらない』  あたしは教室を間違えたかと思い近くの人に確認をしたが一年二組だそうだ。  一度教室を出て、前のドアから中を覗くと、女の子に囲まれて困り果てている男の子がいた。光太郎だった。  あたしは光太郎の目を見つめ睨みつけると、彼は気づき女の子に頭を下げながら自席に行こうとするが離してくれず、彼は泣きそうな顔をした。  担任の先生が来ると各各位の生徒は自席に戻って行った。  夢も男の子に囲まれていたらしく、自席でぐったりしていた。  学校初日からこんな事になるなんて頭が痛い。そう言えば、沙知さんが言っていた事を思い出した。  美幸さんが光太郎から女子達を遠ざけていたらしい。光太郎はそもそもモテていた。  こんな現実を突きつけられたあたしは、あり得ない事を考えてしまう程頭の中が整理できていない 『光太郎を学校に行かせるべきではなかった。お金で高校卒業資格を買えば良かったのでは無いか』    もう既に不安でしかなかった。    下校時刻になると光太郎が女子達に連れていかれそうになっていたのを夢が奪い取り逃げて行ったと聞いた。 「はぁ」  ため息しか出ない。  あたしは迎えに着た社有車に乗り、光太郎と夢と合流する旨、LINEで連絡したが既読スルーされ仕方なく一人で帰った。 「社長、お呼びですか?」 「足立、何故黙っていたの!」 「何がですか?」 「学校では夢が久米だったのよ。どういう事!」 「当たり前ですよ。光太郎様と結婚していないんですから」 『ああ、わかり切った回答が返ってきたわ。辛い』 「足立、すぐに婚姻届もらってきて!」 「社長、お疲れではないですか?既に書いてありますが」 「そうだっけ」 「後は光太郎様のサインだけです」  光太郎と夢は中々帰って来ず、あたしはヤキモキしながらリビングで待っていた。    勇司は自室でみかんちゃんと過ごしている。 「あぁ、もう嫌!」  あたしは光太郎がいつも座る席に婚姻届を置き電話をかけた。  「足立?」 『はい』 「早く自宅に来て」 『今からですか?』 「は、や、く、き、て」 「ピンポン」  チャイムが鳴った。足立だった。  あたしは玄関を開けると足立の後ろに光太郎と夢がいた。 「光太郎」 「ごめん遅くなった」 「早く入って!」  あたしは光太郎の手を引っ張りリビングに連れ、彼の席に座らせた。 「弓どうしたんだよ」 「これ見て」  あたしは婚姻届を指した。    光太郎は婚姻届を一度見るとあたしを見た。 「婚姻届?」 「そう。ここにサインして」  光太郎は隣に座っている夢を見るとあたしを見て言った。 「今サインをしたら夢の性が変わるんじゃ」 「だ、か、ら、南にするの!サインして!」 「わかったサインするけど夢の姓は久米でいいよな?」 「ダメ!!」  あたしはガンと耳を貸さない。 「今夢の姓を変えたら怪しまれる」 「それがどうしたの?」 「社長。光太郎様のおしゃる通りです」  光太郎が厳しい表情をしたのは久しぶりだ。 「じゃあ、サインしない」  あたしは慌てて取り繕った。 「えっ。ちょっと待って光太郎」 「夢の姓を高校卒業まで久米にするならサインするけど」 「う〜」 「社長。妥協も必要ですよ」  こういう時、光太郎は誰の耳を貸さない。出会った頃を思い出して、当時約束をした『あたし以外の女の子を見ない、話さない、耳を貸さない』を約束し、夫婦別姓にした。
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