第9話 World Cup予選会

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第9話 World Cup予選会

 俺とみかんは予選シード扱いで出場している。 「勇司、暇だよぉ」 「仕方ない猫でも見ていろ。ポータブルゲーム機持って来ているんだろう」  「うん。あるけど」  「あるけど?」    みかんの煮えきれない態度に苛立ち始めた。 「なぁに、勇司」  「いやなんでも無い」  そうだった。俺が機嫌を悪くして逆にみかんの機嫌を損ねたら後がやばい。 「猫」 「だ、か、ら、いまやりたく無いの!」   かなり長めの沈黙に俺は痺れを切らした。 「何時から始まるか運営にきいてこようか?」 「うん。お願い」   俺は運営委員会が待機しているstaff onlyと書かれている部屋のドアをノックした。ノックしたところで関係者が出て来るとは思わなかったが、試しにやってみたのだった。  ガチャリとノブを回す音がして人が出て来た。 「はい。どなたですか?」 「今日一回戦目から出場の久米勇司と弓月みかんです。一回戦目の開始時間を知りたいのですが。大体で構いません教えて頂けますか?」 「ちょっと待ってて貰っても構いませんか」 「はい。よろしくお願いします」  暫くすると別の人が出て来て 「あのぅ、Vermont社社長久米弓さんのお子さんですか?」 「はい。そうですが」  部屋の中から「キャーキャー」言っているのが聞こえる。 『早くして欲しいのだが。みかんの機嫌をそこねる前に』  更に暫くして、ようやく先ほど対応してくれた人が出てきた。 「お待たせしました。1時間後位かと思います。それと」  係の人は申し訳なさそうな顔をし後ろを振り向いた。その先には色紙やTシャツを広げている人やらその列ざっと20人くらいはいる。 「えっと、その列の人達は?」 「「「サイン下さい!」」」  俺は逃げた。 「冗談じゃない。サイン会などしていたらみかんに怒られる」  運営が待機している部屋の廊下をまっすぐ行った先を曲がるとみかんがこちらに向かって来ている所だった。 「みかん」  俺はみかんのところに駆け寄ると、いきなり平手打ちをされ、よろけた所に蹴りを入れられて尻餅をついた。 「みかん何すんだよ!」 「お、そ、い。いつまで待たせるの?」 「運営の人がサインくれって言って来たから逃げ回っていた」  みかんの目がキラキラし始めた。俺がそれを見逃すはずがない。 「暇ならあの人達とサイン会やってみたらどうだ」  みかんはうんうん頷き、曲がり角から運営が待機している辺りを見て、いきなりガッツポーズをしだした。 「あたし行って来る」  俺こそガッツポーズだ。しかも両手でガッツポーズ!  みかんが運営と部屋の中に入っていくのを見届けて走った。ひたすら走りeスポーツ予選会場に行き彼らのレベルを見定めた。   『みんながんばれ。そして俺の餌食になってくれ』  大体のレベルがわかった時点で後ろから両頬をつねられた。 「勇君家に帰ったらお仕置きだからね」  俺は頬の痛みよりも恐怖を覚え、振り向くと一瞬鬼のような表情をしていたみかんだが、微笑ましいいつものみかんに戻っていた。 「はぁ〜」  俺は深くため息をついた。せっかくここまでみかんの機嫌を損ねないように頑張って来たのに。あのサイン会か?それともみかんを置いて行った事か?そのどちらかしかない。 「みかん、サイン会」  俺はその時吹き飛ばされ壁に激突した。 「いってぇ、みかん何しやがる!」 『あ〜あ、サイン会で何かあったんだな。こいつはアイドルを意識しすぎているからな。思い通りにならなかったに違いない。』 『予選会終了です。World Cup第一戦目からの対戦表を発表します。選手の皆さんはお近くのモニターでご確認ください。第一回戦は30分後に開催します。選手の方は各ブロックにお集まり下さい』 「ついに始まるな。俺達はAブロックだ。頑張って行こうぜ」
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