第16話 勇者が行き着いたもの

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第16話 勇者が行き着いたもの

 危険人物と推定された弓月みかんを地下一階の旧Laboに拘留施設を建設して閉じ込めた。  現在、28階の自宅で川島美幸と浅海沙知を含め家族会議を開いている。 「勇司、本当にみかんちゃんを閉じ込めて置いて良いの?」  あたしは勇司に再度聞いた。 「ああ、あいつは危険人物だ。ほっといても死なない」 「私もそう思う」 「私も。だって突然現れて私達をあの氷の壁に閉じ込めたんだから」 「弓、俺もそう思うぞ」  あたしはみんなの顔を見て話を切り出した。 「どうして美幸さんと沙知さんがあそこにいたのか、XX2はどこから得たのか等を知りたいわ」  美幸さんは沙知さんと顔を見合わせて頷くとゆっくり話始めた。 「長くなるけどこの話は16年前からになるの」  その話は私達の想像を絶するものだった。  16年前、魔王と交戦していた光太郎を救う為、美幸さんは聖剣を使い邪悪な物を滅ぼそうとしたが、光太郎を陥れる結果となり後悔し続けた。 「弓、謝りたかったのは私の方よ。光太郎を救いたかったのも私なの。本当にごめんなさい」  美幸さんは深く頭を下げた。 「美幸さん、やめて下さい。あたしが光太郎を無理矢理でも現世に連れてくればこんな結果にならなかったかもしれない」  私も美幸さんも口を閉ざして俯いた。 「おい、感情に浸っている場合じゃない。魔王に狙われている事を忘れるな」 「ごめんなさい。それから私は情報を集めようと片っ端からネットサーフィンをしていた。『X』2もプレイしてきた。でも手がかりは見当がつかなかった。ある時、『X』2の被害者の会がある事を知り私も参加した。そこで知り得た情報が、『もう一つの『X』World』よ。仮にWorld2と名ずけると、World2に転移した人は何事もなく帰還している事が判明したの。私も行って見たわ。『もう一つの『X』World』に」  美幸さんは16年間World2に行き続け光太郎を探し続けた。 「私一人では限界がある。そこで沙知に話し手伝ってもらったの。そこで見つけたわ。魔王が居たのよ。しかし、魔王は光太郎、貴方が魔王を逃すまいと捕まえて居たの。魔王と光太郎は一体化していたわ。どうすれば良いか迷った。光太郎と魔王を分離したら魔王が復活する事も考えたわ。でも、でも…」  美幸さんの大きな瞳から涙が溢れて頬を伝う。美幸さんは涙を拭い柔らかい目で光太郎を見つめた。慈母の様に。 「私だって光太郎が好きだったんだもの。私は私の心を選んでしまったわ。光太郎と魔王を分離し、光太郎、貴方を現世に導いたわ」  光太郎は美幸さんに改めて向き頭を下げた。 「美幸ありがとう。あの光がお前だったのか」 「うん」 「美幸さん、ありがとう。光太郎を救ってくれて。16年あたしは何もしてこなかったわ。何て愚かなの」  あたしは美幸さんの手を取り 「ごめんなさい。貴方の人生を奪ってしまった。沙知さんの人生も」  あたし達は抱き合い泣いた。 「魔王は復活した。それとみかんが関係しているって事だよね」  あたしも美幸さんも沙知さんも勇司に顔を向け目を伏せた。 「ごめんなさい。魔王を復活するきっかけを作ったのは事実よ」  ここは地下一階旧Labo。 「魔王カルデラ様。貴方が復活したら、あたしのパパとママは帰してくれるんだよね」 『弓月みかん、俺の可愛い相棒よ。当たり前だ。俺が復活したら直ぐに返してやる』  28階自宅のリビングにて。 「用意はできたか?」 「うん。これで問題ないわ」 「勇司、みかんちゃんを旧Laboから絶対に出すなよ。わかっているな」 「ああ、わかっている」  俺はベッドに横になり偽物の俺と意識を繋ぎ、偽物を旧Laboに向かわせた。 「みかん」 「勇司、ここから出して。お願い」 「ダメだ」 「どうして。あたし、パパとママの所に帰りたいの」 「わかっている。もう少し待て。必ず出してやる」 『弓月みかん、正直に言っても良いんだぞ』 「勇司、お腹空いた」 「今用意している」  食事が届くとみかんを拘留施設から出して食事を取らせた。 「勇司、あのベッドで一緒に寝よう」 「それもダメだ」 「どうして」 「どうしてもだ」  みかんは俺の手を握り俺の目を見つめた。偽物だとバレたかと思い冷汗が流れた。 「あたしのパパとママが魔王に捕まっているの助けに行きたいの。だからあたしをここから出して」  みかんの目は本物だった。どうするか迷った。 「少し時間をくれ」 「どれくらい」 「1時間くらい」 『カルデラ様、1時間時間を貰える?』 『ああ、良いだろう』  俺は決心しなければならなかった。そしてみかんを信じて旧Laboを出た。フィールド10からWorld2の洞窟に着くとそこで見たものは見るに耐えない状況だった。 「パパ、ママ!。やめてぇー。パパとママを返してくれるって言っていたじゃない!誰か助けて!イヤー」  みかんは俺の腕の中で倒れた。  みかんの両親と思われる人は苦しみもがきながら魔獣に捕食された。 「魔王!許さねぇ!」 『腑抜けのお前に何が出来る。死ねえ』  俺は魔王の腕で心臓をひとつきで刺された倒れた。  みかんは魔王に連れ攫われた。
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