第17話 みかんを救うために

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第17話 みかんを救うために

「うわぁー」 「勇司、勇司」 「ここは?はっ!みかんは、みかんは?」 「勇司!」  親父は首を振っている。お袋も姉貴も目を伏せていた。 「正夢か」 「夢じゃない。お前が見てきたそのままだ。一つ違うのはみかんちゃんのご両親は既に死んでいた。みかんちゃんは魔王に騙されていたんだ」 「勇司」  お袋は俺を強く抱きしめた。暖かい温もりが俺の心の支えとなっていく。おれは泣いていた様だ。拭った手が濡れていた。 「くそっ!くそっ!くそっー」  俺はみかんを救えなかった。また沸々と怒りが湧いてくる。 「明日は弓月みかんの身元を洗う。魔王探索はそれからだ」  皆んなが頷いた。  俺は拳に力を入れ強く握った拳を見つめた。  翌日、俺と親父はWorld2の探索に向かった。俺のたっての希望だ。  みかんの身元の調査はお袋と姉貴が行っている。美幸さんと沙知さんは自宅に帰って行った。 「この辺だな」 「ああ」  あの光景が目に浮かぶ。俺は剣を出し剣を何度も振るった。その度に氷の壁が抉れていく。親父がその手を止めた。 「勇司、闇雲に剣を振るっても無駄だ」 「無駄なんかあるかぁー!くそっ、くそっ、くそっー!」 「勇司、落ち着け。そんな事をしてもみかんちゃんは帰って来ない」  そんな事はわかっている。自分自身に怒っているんだ。自分の無力さに。 「魔王に会ったのか?」 「いや」 「そうか。気配がわかれば探しやすいんだが」 「そう言う事か。気配ならわかる。ここにはいない」 「奥に行ってみるか」 「ああ」  俺と親父は更に進んだ。どれくらい歩いたかわからない。行き着いた先は行き止まりだった。 「ここだ。やつはこの先にいる」 「わかった。今日はここまでだ」  俺は再び剣を出し剣を振ろうとすると奴の声が聞こえた。 『相変わらず愚かな奴だ。久しぶりだな南光太郎、元気にしていたか』 「お前はあの時の魔王か?」 『そうだ。相変わらず間抜けだな』 「何だとぉ。出てこい」 『バカを言うな。お前がここに来い。この壁を突き破れたらな』 「勇司、行くぞ。ファイヤーボール」 「風の刃、炎の刃」  この壁は削れもしなかった。 「ダメだ。びくともしない」 『ふはははは。お前らでは無理だ。もう少し待て。時が来たら望み通りここから出てやる』 「くそっ!」 『ふははは』 「勇司帰るぞ。力をつけてからだ」  帰り途中でお袋から通信が有った。 『パパ聞こえる?』 「ああ、聞こえているよ」 『みかんちゃんの身元がわかったわ』 「話してくれ」 『弓月みかんは実在するわ。しかし、ご両親は既に亡くなっていた。祖父と祖母に面倒を見てもらっていたそうよ』 「わかった。詳しい話は自宅に帰ってから聞く」 『待ってるわ』  俺達は自宅に帰りみかんの話しを聞き、魔王に会った話をした。  俺は毎日みかんの夢を見た。俺は役立たずだ。それから毎日、フィールド10に行き技を磨いて行った。
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