第5話 現世への帰還実行

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第5話 現世への帰還実行

 虫の音がうるさい程に聞こえる。    僕達は腰を落とした状態で一歩一歩ゆっくり進んで行く。ゲーム内ではMonsterは夜行性ではない設定になっているが、先程の河本さんが襲われた事を考えると、草むらに身を隠しながら進んで行った方がリスクを抑えられる。  僕は身体中から汗が吹き出て、アーマーの中は汗がいっぱいで気持ち悪い。焦る気持ちを抑えゆっくり進んだ。  スタート地点は目前だ。 「浅海沙知さんに伝語をお願いします。静かに伝言して下さい。「詠唱完了にどれくらいかかりますか?」と伝えてください」  答えは三十秒だった。 「もう一度、木城さんにお願いします。三十秒後に僕が囮になります。浅海さんを中心にみなさんがっちり手を繋いでください。そして最後の方は浅海さんの腰でもどこでもしがみついてください。絶対に離れない様に。わかりましたか?」 「えっと、えっと…」 『この状況で覚えられないよな』 「名前を教えて下さい」 「あたしのですか?」 「はい」 「久米弓です」 「ありがとう。久米さん」 「弓と呼んで下さい」  目力の強い子だと思った。 「手を握っても?」 「はい」  僕はアーマーの上から手を拭き、彼女の手を強く握った。 「痛い」 「ごめん。これくらい強く握って欲しい。浅海さんに抱きついても良い。とにかく二度と離れない様にしっかり捕まって。それと三十秒後に僕は離れます。そう伝えて下さい」  弓さんが僕のアーマーをつまんでいる様な気がしたが、攻撃開始時間と共にその手を振り切り、僕はMonsterに向かって走った。 「皆んな走ってスタート地点に!木城さん、彼女のバックアップを!」  僕はホイッスルを鳴らして走り回った。Monsterがホイッスルの音に向かってやってくる。 「数は6。ちょっときついな」   大弓で数を減らして行く。 「残り4」  スタート地点では瞬く光と共に彼女達の姿が消えた。  僕は更に加速してMonsterの足元にたどり着くと、大剣を足下から真上に投げ、更に走った。  木城さんに向かって行くMonster目掛け大弓を二発立て続けに放ち、真後ろから来るMonsterの攻撃を交わし、空高くジャンプした。 「これでも食らえ、シャイニングアタック」  Monsterが頭から真っ二つになり「ドスン」と音を立て倒れた。 「残り1。木城さん苦戦しているな」  空から落ちてくる人の姿が見えて唖然とした。 「はぁ、はぁ。排除し切ったぁ」 「お疲れ」 「新庄さん」 「あの子達は?」 「転送出来なかった子達だ」 「三分の二は成功したんですね」 「現世に戻れたかはわからないがな。ポーションいるか?」 「はい。ありがとうございます」  僕は改めて転送出来なかった子達を見回すと、弓さんが転送出来なかった事に気がついた。 「弓さん」 「光太郎さん、あたし」  彼女は今にも泣き出しそうだ。 「木城さん」 「どうした」 「アイテムどれくらいあります?」 「ポーションが3、後は攻撃系だ」 「わかりました」 「どうする」 「100%で無かったのが残念ですが、まずはアジトに帰還しましょう」 「そうだな」  彼はアジトへ目を向けて、僕達に向き直った。 「新狩は俺だな」 「はい。お願いします。皆さんの職制を教えて下さい。」  彼女達の話によると、魔法使いが2、アタッカーが3だった。  僕は7人の配置を描いた。 「木城さんの後ろに魔法使いが並んで下さい。アタッカーは魔法使いの後ろに付いて下さい。僕はその後ろに付きます。それと魔法使いは防壁を自分につけて下さい」  僕は意義を唱える人がいないかチェックして、弓さんに話しかけた。 「弓さん出来るね」 「はい」  彼女の表情が曇っているのが気になったが、今はその思いを切り捨てた。 「木城さん行けますか?」 「きついけどな」 「3、2、1で皆さんアジトに向かって真っ直ぐ走って下さい」  僕は弓さんの手を握った。なんだかそうしたかった。いや、離したく無かったのかもしれない。 「3、2•••」  僕は彼女の手を離し走り出した。 「1!!」  皆んなが走り出したのを確認して詠唱した。 「ファイヤーポール」
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