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第2話 母さんと姫様
「み、か、ん、や、め、て、く、れ」
無数の触手でお袋と姉貴を吊り上げ、首を締め胸に触手を突き刺している。
お袋も姉貴も苦しさと痛みで口をパクパクしている。
みかんはゆっくり首を回し俺に顔を向けた。その表情は苦しみ涙を流している。
「勇司わかる?間近で両親の死んだ姿を見た時の悲しみを」
俺は喉が渇き唾を飲み込む。
『みかん早くやれ』
みかんの手が強く握られ、触手にも力が入る。その度にお袋と姉貴が悲鳴を上げた。
『みかん。もうおやめなさい。八つ当たりよ』
『ママ』
『そうだぞ。パパは人殺しに加担したんだ。その罪は重い。みかん。お前はこれからだ。まだやり直せる』
『パパ。悪いのはこいつらよ』
『みかん。そいつらの言葉に耳を貸すな』
一瞬力が弱まった様に見えた。俺は剣を抜き振り上げた時、みかんとは思えない声で話した。
『もう良い。お前が出来ないのならば、俺が止めを刺してやろう』
そう言うや否やお袋の胸を突き刺した。
俺は剣を振りお袋の元へ向かった。
「母さん。母さん。起きてくれ。母さん」
みかんは真っ二つになり、姉貴とお袋を縛っていた触手は外れ二人とも床に転がった。
※
『ドラゴスタ。どうするの?』
『カルディアはどうするんだ』
『う〜ん』
『俺は南光太郎に付く』
『久米勇司は大丈夫なの?』
『ああ、魔族の方には傾かないと思うが。早くしないと弓月みかんが復活するぞ』
『わかったわ。久米弓に付くわ』
『よし、せいの』
※
俺は姉貴とお袋にヒーリングをかけ続けた。後方から肉が混じる音が聞こえ振り向くと原型をとどめていないみかんが立ちあがろうとしていた。
お袋の指が動いた気がした。
俺はヒーリングを掛けながら詠唱した。
「ファイヤーボール」
口から出て来た炎のボールが大きくなっていく。みかんの触手が俺に向かって来た。
「はぁーあ」
ファイヤーボールはみかんの触手を焼きながらみかんに向かって行く。
お袋はカッと目を開け目にも止まらぬ速さでみかんの前に行くと、触手を切り落としファイヤーボールを手で掴み、みかんの顔に叩きつけた。
「ぎゃー」
みかんは絶叫し廊下に吹き飛ばされた。
「えっと母さん?」
「ごめんね。貴方のお母さんだけどお母さんではないの。早くお姉さんを治してくれる?私忙しいからお願いね」
意味不明な事を言うお袋は「聖剣」と言い剣を抜いた。
お袋はアタッカーではなかったと思うが、細かい所はいいか。とにかく姉貴に集中しようと両手を姉貴の胸に当てヒーリングを強めた。
背後では「えい、やぁー」の掛け声と共にキンキンと刃物がぶつかる音がしている。
姉貴の胸の傷はほぼ回復した。俺は向きを変えお袋を見ると違和感を感じた。
「助太刀しようか。母さん」
「うん?今集中しているから邪魔しないで。お姉さんは治ったの?」
「うん。致命的では無いので大丈夫です」
お袋はなんだか遊んでいる様な、チャンバラを楽しんでいる様に感じる。
「あの」
俺の言葉に耳を貸さず。背中越しに姉貴と話している。
「ステファニー?」
「はい」
「そっちは大丈夫?」
「何とか」
「じゃあ後は任せても良い?」
「ちょっと、姫様!この状態でそいつと戦えって言うんですか!」
「違うわよ。みかんちゃんは倒すけど。後は自力で頑張って」
「はい」
俺は彼女達が何を言っているのかわからない。
「勇司君下がってて怪我するわよ」
「えっと、勇司君?」
首を傾げる俺に関係なく事が進んでいく。
「行くわよぉー。怒りの雷」
みかんの頭上に黒い雲が現れて電気が流れ始めた。雲の電気が大きくなりみかんに雷が落ちた。更にお袋は次々と詠唱した。
「聖水、焼き尽くす炎」
水たまりができみかんの動きが止まったかと思うと膝から上が燃え上がった。
「これで当分大丈夫ね」
お袋は振り返り微笑んだ。
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