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第3話 お袋が『かみさま』と言っているが?
お袋は箱の様な物を燃え上がるみかんに向かって放り投げると「death」と言った。
みかんに放った箱はみかんを吸い込み小さくなってお袋の手に戻って来た。それはキューブ型の小さなイヤリングだった。
お袋はイヤリングを俺に向け揺らしながらニッコリしている。
「可愛いでしょ」
「はい。可愛いです」
なんか調子狂うなぁ。
「あの。母さんだよね」
「だから、さっき言ったでしょ。お母さんだけどお母さんでは無いって!」
お袋はかなり苛立っている。俺もだ。
そもそも話し方は雑だし、俺を見る目は見下している様に見える。『お袋の様でお袋では無い』とは一体どう言う意味だ。
「だから、意味わからないって言っているんです」
「もう面倒くさい子ね。全て終わったら話してあげるから」
姉貴がお袋を睨んでいる。
姉貴は親父にゾッコンだがお袋を嫌っているわけでは無い。それにしても小さい頃から可愛がってもらっていたお袋を睨むなんて。
呼び方も変だ。お袋の事を『姫様』と呼んでいた。お袋は姉貴を『ステファニー』と呼んでいた。ここは日本だ。何処かの国の主従関係か?
「さあ、行きましょう。みかんちゃんを助けないと」
「まだ解決していないですよ。うぉあー」
お袋に手を捕まれ引きずられる様にすごいスピードで空間を駆け抜けていく。全面に光の玉がこちらに向かって来て通り過ぎて行く。
俺は温かい手に掴まれながら凧のようにひらひらと靡いている。本当に温かい手だ。太陽みたいに温かい。
「苦しい。骨が折れそうなくらいの圧力、何とかして下さい」
「あらっ。早すぎたかしらぁ」
スピードが緩んでくると向かってくる光の玉がゆっくりになって行った。
「はぁはぁはぁ。なんなんです貴方は」
「だからさっき言ったでしよう。神よ」
「かみ?」
「そうよ。もうすぐよ。貴方はみかんちゃんを助ける事だけを考えて」
『かみ』なんて言う単語はこの数分間で聞いていない。俺は意味がわからず思考回路がショートして行った。
光の空間から抜けると『かみ』は俺の手を掴んだまま空中で止まった。
俺はぶらぶらしながら下を見下ろした。
赤坂を中心に23区内は爆撃を受けたようにビル群は倒れている。車や電車は横転したり潰されている。陸橋なんて跡形も無かった。
「そろそろ下ろしてもらえませんか?」
「うん?あ〜、もうちょっと待って」
「東京タワーやスカイツリーはどこに行ったんだ?」
「そうね。綺麗さっぱりになっちゃったね。街の修復が大変そうだわ」
「えっと、魔王カルデラが見当たりませんが」
「海の方に行ってみましょう」
俺はお袋を『かみ』と呼ぶことにした。『かみ』は俺の手を引きながらゆっくり飛んでいる。
「あっ、いたっ」
『かみ』が見る方向に向くと大きな体の魔王カルデラに立ち向かう米粒くらいの大きさの親父がいた。
「光太郎さ〜ん」
「光太郎さん?」
「何?」
「いや『かみ』、さん付けは違うと思うけど」
「様くらいつけなさいよ。それでどう呼んだら良いの?」
「いや、呼び捨てで良いかと」
「わかった。光太郎ー、どう?」
「うん?弓か。危ないから帰れー」
『かみさま』の顔がみるみる赤くなる。俺の腕を掴む手に更に力が入った。
「『かみさま』痛いですっ」
「もぉ〜怒ったんだからぁ」
『かみさま』は俺をブランコのように振りポイっと投げた。
「うわぁ落ちるぅ〜」
「勇司っー」
親父は前方を警戒しながら俺を抱えに飛び上がった。俺は親父にキャッチされ陸に着地すると、俺は親父と『かみさま』へ目を向けると彼女の体が大きくなっていった。
親父は『かみさま』を指差し言った。
「あれは弓だ、よ、な?」
「俺も知らなくて。『かみさま』って言っていた」
「お前一緒に来たんだろう?」
「偽みかんの触手が母さんの胸を貫いた後あのような性格になった」
『俺から説明しよう。その前にお前は眠っていろ』
突然空から声がして俺達は驚いた。そして、 俺は見えない手刀で首の付け根を叩かれて気を失った。気を失う前に『あれはうちの嫁だ』とだけは聞こえた。
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