第4話 悲しみを乗り越えて

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第4話 悲しみを乗り越えて

 空気を振動させる程の怒声で俺は目が覚めた。  周りを見渡すと大きくなった『かみさま』の横に頭ひとつ分高い鬼人が立ちその前に正座している魔王カルデラがいた。  俺の横には剣を構えた美幸さんがいる。 「美幸さん、ここで何をしているんですか?」 「勇司君目覚めた?」 「はい。あの、状況はどうなっているんですか?」 「詳しい話は後でするから勇司君はみかんちゃんを救出する事だけ考えて。他の事は目を瞑って。私が合図したら行くのよ。魔王の左胸目指してね」  美幸さんが振り上げた剣が白色電灯のような色に輝き出し「浄化の光」と言い振り下ろした。 「美幸さん浄化の光って邪悪な魂を持つ物全てを消すやつですよね?」 「そうよ。貴方はみかんちゃんの事だけ考えてって言ったでしょ」  美幸さんは再び剣を振り上げた詠唱すると白色電灯のような光の刃が彼らに向かって飛んでいく。  2度目の刃だ。1度目は魔王カルデラに吹き飛ばされた。 『また同じ技を使ってどうするんだ』  ところが2度目の光の刃を『かみさま』が手で掴み 「ドラゴスタ、早くやって」 そう言うと鬼人化した親父に向けた。 「カルディア任せとけ。ブラックホール」  光の刃はみるみるうちに黒くなり大きく、大きくなって中が渦巻いている。 「さあ行くぞ、カルデラ」  魔王カルデラは正直に立ち上がると、黒い渦が彼を包み込んでいき左胸部分のみが見えている状態になった。 「勇司君、あの胸に向かって飛んで」 「どうやって?」 「助走つけても良いからジャンプしてもらえる?」 「分かりました。とにかくやってみます」  俺は数m下がり走ると美幸さんが立っている辺りでジャンプした。まるっきり届かない。すると魔王カルデラの左胸辺りから優しい顔、優しい声がしてこっちに向かってくる。 「勇司こっちよ。さあおいで」 「母さん、母さん」  若い頃の母さんだろう10代くらいの若さで学生服を着ている。 「母さん」 「後もう少しよ。頑張って」  母さんの手に捕まると母さんに抱きしめらられた。温かい温もりを感じた。  何故か涙が溢れてくる。 「母さん、母さん」 「頑張ったわね。後一息よ。みかんちゃんはあそこにいるわ」  魔王カルデラの左胸が大きく切り引かれていて、切り口から裸のみかんが体育座りで膝に顔を埋めている。 「みかんちゃんは眠っていて揺り動かしても起きないわ。愛情を込めて起こして上げて」 「うん。でもどうやって?」 「みかんちゃんを好きな気持ちあるでしょう。その気持ちを大きくして優しく抱いて愛の言葉を伝えれば良いの。やって見て」  俺は母さんに目を向けた。母さんはどう捉 えただろう。眉間に皺を寄せたかと思うと心配そうな顔になり俺の頭を撫でた。 「何故心配そうな顔をしているの。母さんも手伝って上げるから一緒に行こう」  俺は母さんに手を引かれみかんの前に座り体育座りのままのみかんを抱いた。母さんは後ろからみかんをだいている。母さんが頷くと俺はみかんの顔を上げキスをした。 「みかん、一緒に行こう。二人で暮らそう。みかんの好きなところで好きなだけ好きなように生きよう。俺はみかんだけを愛している」  再びキスをした。  みかんの目から涙が溢れて頬を伝う。みかんはキスで返して来た。 「もう大丈夫ね。さあ行きなさい」  俺もみかんも声のした方へ向いた時は既に遅かった。ものすごい力で押し出されあっという間に空中に投げ出された。 「キャー」 「落ちるぅー」  俺とみかんは抱き合い若干の空気抵抗はあるもののものすごいスピードで地上に向かって落ちて行く。  高層ビルから落下した時にショック死する話を聞いたことがあるが、まさにショック死する程怖い。 「キャーキャー」 「死ぬぅー」 『本当、ピーピーうるさいわね』  落下スピードが遅くなったかと思うと俺はみかんを抱きながらブランブランしている。  みかんが口に手を当てているのを見て、恐る恐る首を回すと見知らぬおばさんが俺の服を摘んでいる。 「誰、このおばさん。みかん知ってる?」  みかんはブンブン首を振っている。 『何、今お○○んって聞こえたような気がするけど空耳かしら?』  彼女の顔が鬼よりも恐ろしい顔つきになった。  俺もみかんも必死に首を横に振った。  俺は掠れた声で 「お姉さんはだれですか?」 『うふっ、お姉さんだなんて言われちゃったぁ』  彼女は頬を赤らめ、俺を摘みながら両手を頬に当てくねくねしている。  俺は内心なんだこのおばん。ぶりぶりしやがってきもい。それにぶら下がっている俺たちの事も考えて欲しい。 「そろそろ下ろしてもらえなせんか?」 『あっ、忘れてた。今降ろすわ』  彼女は俺達をポイっとゴミ箱に投げ込むように放った。俺とみかんは顔を見合わせ再び同じ状況になった事を認識すると絶叫した。    気がつくとみかんは白いドレスを着ていて美幸さんに抱えられていた。俺は草や土まみれになって転がっていた。 「みかんちゃん、みかんちゃん」 美幸さんがみかんに話しかけている。 『雑だなぁ。なんで俺が雑に扱われるんだ』 「よいしょっと。みかんは大丈夫ですか」 「勇司君起きた?う〜ん、みかんちゃんはまだ目が覚めないんだけど」 「あの、美幸さん一つ聞いても良いですか?」 「なあに?」 「あの、この件の詳細を教えてくれるって話です」 「あ〜、あのことね。後で話すわ」 「また後ですかっ!」 「少し遅くなっても良いでしょ。減るもんじゃないし」    みかんが目覚めてからなんだかんだしているうちに美幸さんがいなくなっていて、結局何一つ聞き出せなかった。    もう既に心の準幅は出来ていた。   お袋は偽みかんに刺され、親父は魔王カルデラと共にどこかへ消えて行った。
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