第6話 過ち

1/1

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ

第6話 過ち

 あたしは過ちを犯した。 『ごめんなさい。ごめんなさい』    許してもらえるだろうか。 「何この子、泣きながら走っているわ」 「バッカじゃないの」 「魔法使い!しっかりしてよね」  木城さんが私を気にしながら進んでいるのが、更にあたしの心を切り裂いた。 『光太郎ごめんなさい。私嘘を付きました。隠れ属性を持っているんです』 「いい加減泣くのを辞めてよ」  あたしは息を吸い吐き出すと 「あの!あたし、隠れ属性を持ってます。走りながら聴いて下さい。神官のスキルを持っています」  後ろから足を引っ掛けられた様な気がした。  草原が、地面が間近に迫っていてあたしは目を瞑った。その時、手を引っ張られたが、体勢を立て直されず地面に転がった。 「痛いっ!」  きっとこれがあたしの罪滅ぼし。 「おっと危ない。皆んな足を止めるな!走り続けろ!立てるか?」 「はい。ごめんなさい」 「弓ちゃん、走ろう」  木城さんはあたしの手を取り走った。前列の人に追いついた時には、Monsterが間近にいた。 「皆さんあたしにしがみついて下さい!」  顰めっ面をしている人、唾を吐いた人も…いた。 「木城さん!」 「先に行け。どれくらいで行ける?」 「五秒です」 「三十秒でも良いから、確実にやれ!」 「はい!」 「聖なる精霊よ我が身の思惑ままに。トランスファウラー!」 「「キャー」」 「重い」 『こんなだったっけ。詠唱者だとこうなるのかも』 「大丈夫?」 「誰かウォーター持ってないか?」 「ポーションは?」  誰かの声が遠くで聞こえた様な…  目が覚めると別室だった。 「あのう、あたし」  その子は部屋を出て行った。その子が戻ってくると「こっち来て」と言いドアを開けたままあたしを待っている。  その子について行くと待機場所だった。  みんなの視線が痛い。  お腹に蹴りを入れられビンタされた。 『痛い。これもだ、よ、ね』  「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんさい」  あたしは頭を擦り付け土下座をしている。髪を引っ張られ 「てねぇ、嘘つきやがって!」    お腹に蹴りを入れられた。 「ごほっ、ごほっ」 「もう辞めときな。お嬢ちゃん反省したか?」  神官の新井まひるさんだ。木城さんの次に歳上の人。 「ごめんなさい。うぇ〜ん」  また、蹴りを入れられた。 「もう泣くのおよし!」 「もうやめろ」  低い声だった。 「加賀さん」 「俺も詫びる事がある。ごめん」 「おい、お前もか!」  加賀さんも殴られて蹴られている。あたしもまた。 「ごほっ、ごほっ」  待機室は静まり返っていた。あたしと加賀さんが呻く声だけ。  頭が揺れた。  『千里眼?光太郎と木城さん』 「ごほっ、光太郎さんと木城さんが帰還します」 「お前、まだ!」 「よせ、もう良いだろ。南が見たら殴られるぞ」 「彼女も加賀も懲りただろう。もうやめろ」  『光太郎、助けて』  バンという音がして、あたしは気を失った。 「静かだなぁ。ごほっ、ごほっ」 「大丈夫か。ヒーリングはかけてもらったつもりだけど、痛いところがあったら教えてくれ」 「ごほっ、光太郎」 「喋らなくて良い」  彼はあたしの手をギュッと握ってくれている。 「あたし、あたし」 「良いよ。ごめん、僕がダメだから」 「光太郎。ごめんなさい」  彼は優しくあたしを抱きしめてくれた。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加