ネクタイのお礼は夜明けのコーヒー

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「おはようございます」 「おはよう」 出勤してきたら、夜城(やしろ)課長と黒縁眼鏡越しに目があった。 なぜか彼の手がネクタイへ伸び、ズレてもいないのに位置を直す。 ……あ、あのネクタイ。 ちらっと、こちらを見た課長と再び、目があった。 唇が小さく、ありがとうと動く。 熱くなった顔で頷き、私は席に着いてパソコンの電源を入れた。 夜城課長の三十二歳の誕生日プレゼントに、あのネクタイを渡したのは昨日の話だ。 それをまさか今日、早速してきてくれるなんて思ってもみなかった。 仕事中もつい、課長を見てしまう。 ……あれで、よかったのかな。 濃紺のスーツが多い課長にあわせて、ワインレッドにピンドットのネクタイを選んだ。 私の目から見てそれは似合っているように感じるが、ただの自己満足かもしれない。 それじゃなくても私は、ファッションセンスがないのだ。 そのせいもあっていつも、長い黒髪はひとつ結び、白ブラウスに紺や黒の長めのタイトスカートなんて格好で、しかもごく普通の黒縁眼鏡なんてかけているもんだから、年より老けて見られる。
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