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「僕は月橋が好きだ。
疑うことを知らない素直なところも、綺麗な姿勢も。
その、まっすぐに見つめる先にいるのが、いつも僕だったらいいのにと願っている」
左手をテーブルに着き、ゆっくりと課長の顔が近づいてくる。
唇に柔らかいものが触れ、離れていった。
「……美卯、は?」
するり、と課長の手が、私の頬を撫でる。
揺れる瞳をまっすぐに見つめ、彼に微笑んだ。
「私も夜城課長が好きです」
眼鏡の下で彼の目尻が下がり、緩いアーチを描いた。
帰りのタクシーの中は、微妙な空気だった。
なにか言いたそうに課長は黙っている。
私もそれが、わからないほどウブじゃない。
こつ、こつ、と隣あう手が触れる。
そのうちそれは、指を絡めて握られた。
「……なあ。
今晩、うちに泊まらないか」
ドアに頬杖をつき、外を見たまま彼がぼそりと呟く。
「……はい」
ぎゅっ、と力を入れて彼の手を握ると、彼の方からさらに力を入れて握り返された。
マンションの前で車を降りる。
エントランスの鍵を開けたあと、課長はさりげなく私と手を繋いだ。
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