ネクタイのお礼は夜明けのコーヒー

11/17

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
部屋は広く、モノトーンで揃えてあった。 いかにも夜城課長らしい。 「なんか飲むか」 とか言いつつも、冷蔵庫を開けた課長は日本酒の瓶とグラスを持ってきた。 「じゃあ……いただきます」 ソファーに座った彼の隣に、少しだけ遅れて腰を下ろす。 私が持ったグラスへ、課長は日本酒を注いだ。 「僕はさ。 美卯からネクタイをもらって、めちゃくちゃ嬉しかったんだ」 「え?」 グラスの酒を、課長が一気に飲み干す。 ネクタイくらいで、そんなに? そういえば、今日は自慢して回っていた、って。 「ネクタイを贈る意味って、あなたに首ったけ、だから」 すーっと、とても大事そうに課長の手がネクタイを滑っていく。 ただ単に、ビジネスマンウケがよく、いくつあっても邪魔にならないもの、でネクタイを選んだ。 そんな意味があるなんて思いもしない。 「私はそんなこと、知らなくて」 「うん? わかってるよ、それくらい。 そうだったらいいって僕の願望。 それでも美卯は、僕のことが好きだって」 課長の手が、私から眼鏡を外す。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加