30人が本棚に入れています
本棚に追加
一度だけ唇が触れて離れた。
「キスするときは、眼鏡を外さないとね」
「あの、でも、課長は?」
「ん?」
すぐにレンズの向こうでまぶたが閉じられ、私も目をつぶる。
今度重なった唇は深くて、ぬるりと彼が私の中へ侵入してきた。
彼に翻弄され、溺れるのが怖い私はその首へと腕を回して掴まる。
「……」
唇が離れ、見つめあう。
彼は自身が濡らした私の唇を、その親指で拭った。
「ねえ。
美卯を全部、僕のものにしたいんだけど……ダメ、かな」
私の耳元で囁かれた熱い声が、鼓膜を甘く震わせる。
レンズの向こうに見えるのは、妖艶に私を誘惑する黒く濡れた瞳。
その問いに、私は――。
朝、目が覚めたら隣に夜城課長はいなかった。
「……」
ぼーっと起き上がり、手探りで探しだした下着を穿く。
次に、ぼんやりと見えた白いシャツを手に取って羽織ったけれど、どうも自分のものにしては大きい。
「……課長のか」
けれどさらに探すほどの気力はなく、ふたつほどボタンを外して残りを留める。
最初のコメントを投稿しよう!