ネクタイのお礼は夜明けのコーヒー

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『シャツくらい、着替えたいだろ? 僕のシャツを着ていけばいい』 と、新しいシャツを渡してくれた。 さらには緩めにネクタイを括り、コテがないからあまり可愛くできんとかブツブツ言いながら髪までセットしてくれた。 どこでこんな技術を? と訝しんだが、ふたつ上の姉に仕込まれたらしい。 「うーん、やっぱり慣れない……」 トイレの鏡に映る私は、いつもの私じゃなくて戸惑ってしまう。 それは周囲も同様みたいで、今日はひそひそ話が絶えない。 ……まあ、気持ちはわかるから仕方ないけど。 「あ、月橋さん」 連れ立ってトイレに入ってきた同僚ふたりが、目配せしあう。 似合っていない、とか言われるのかと思ったけれど。 「今日の月橋さん、可愛いね」 「えっ、あっ、ありがとう、……ございます」 まさかの褒められて、驚きを隠しきれない。 「で、でね」 再び、彼女たちは目配せしあい、小さく頷きあった。 「……見えてるの、その」 「……キスマーク、ここに」 瞬間、顔から火が出た。 彼女たちが指した首筋を、反射的に押さえる。
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