ネクタイのお礼は夜明けのコーヒー

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課長はお銚子をおちょこの上で逆さにしたが、空だったようで中身は出てこなかった。 ちっ、と小さく舌打ちし、テーブルの上に置く。 「私は……」 きっと、私をからかっているだけだと思う。 けれど、眼鏡の奥からこちらを見ているその瞳は、レンズと一緒で曇りがない。 まさか、本気? 「月橋が冗談にしてほしいなら、冗談で終わらせる。 どうしてほしい?」 レンズの向こうから課長が私を射る。 おかげで視線は、一ミリも逸らせない。 狡い、自分だけ逃げ道を用意して。 こんなの、課長の思うつぼだ。 わかっているのに、口は勝手に言葉を紡ぎだす。 「冗談にして、ほしくない、……です」 夜城課長の歓迎会の日、いつものようにおじさん社員たちからいいように扱われている私を、助けてくれたのは課長だった。 あの日から二年、ずっと彼を想い続けてきた。 その彼が、私を好きだというのだ。 嬉しくないはずがない。 ――けれど。 「でもあとから、そんなつもりで言ったんじゃないとか、言いませんか……?」 「……は?」
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