ネクタイのお礼は夜明けのコーヒー

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その一音で開いた口と同じように、目も見開かれる。 三瞬ほどそのまま固まったあと、その長い指をこめかみに当て、わけがわからないというふうに彼はあたまを振った。 「好きに、そんなつもりどんなつもりあるのか?」 それは、こっちが訊きたい。 わかっていればあのとき、あんな思いはしなかった。 「好きと言われて私も嬉しいと答えたので付き合っているつもりでいたら、変な勘違いはやめてくれ、と言われたことがあるので……」 「あー、それは……」 課長が、天井を仰ぐ。 そのまましばらく黙ったかと思ったら、かくんと首が落ち、勢いよく正面を向いた。 「そいつが、悪い。 月橋が素直なのをいいことに、からかって遊んでたんだろ。 そいつには月橋が負った以上の傷を負わせてやりたいので、その場に僕がいなかったのが残念でならない」 にっこりと課長は実にいい笑顔だが、目の奥が全く笑っていない。 実際にそこにいたらなにをするつもりだったのか、想像すると怖すぎる。 立ち上がった課長はテーブルを回り、私の傍に膝をついた。
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