1人が本棚に入れています
本棚に追加
序
虚ろな瞳が映すのは醜い世界。
陵辱後の視界は紅く、血と腐臭でなぞられた四角い部屋がぼんやりと視えてくる。
「おい、女。気分はどうだ?」
応える気もない。私が何も言わずにいると巨体のオーガと呼ばれる醜い化け物は笑った。
「そうだろうよ。このオーガ様に犯されたやつは皆、こうなるんだ」
オーガは紅い液体の入った瓶を持ってくると、私に口移しでその液体を飲ませた。私がえずいているとオーガは笑った。汚い笑い方だった。
「お前は確かに上者だ。しかしだ。足らんのだ。それは何か。強さだ。俺は強い女が大好きだ。俺を殺せるほどの女。そんな女と殺し合いをしたいもんだ」
オーガは私の耳に口を寄せた。
「俺を殺してくれ」
小声でそう言う。私がオーガを睨むと、彼は小さく笑った。
「この液体がお前の肉体を超人と呼べるほどに、強化してくれる。それに俺の子種もある。そうだ。お前に何度も何度も注入した子種だ。オーガの子種は市場でも高く売られているほどだ」
私が無言でいるとオーガは続けた。
「疲れたんだ。女を犯し続ける生活にな」
その瞳はわずかに人間味を帯びた色をした。
「俺は他のオーガと違って半分、人の血が入っている。だから自我があるのさ。そいつが邪魔をするんだ。俺の、オーガとしての本能をな。まあ、理性というやつだな」
「俺を殺してくれ」
寂しそうな声だった。
「なぜ、私に言う?」
「惚れたからだ」
「私のどこに惚れる要素があった? お前にとってはただの性処理道具だろう?」
「嗅覚だな。ピンと来ないかもしれないが、お前の匂いに惚れたんだ。体臭のことじゃねーぞ? 人間の、血というか、遺伝子に潜り込んだ獣の匂いというか。そういうのを感じたんだ」
「全然、分からん」
「分からなくても構わない。ただ、俺がお前に惚れた。その事実は変わらない」
オーガは腰巻きを身につけると、ベッドに横たわっている私に向けて、頭を下げた。
「俺を殺してくれ」
そういうとオーガは部屋を出た。
「お前をいつまでも待っている」
去り際にそんなことを言った。
この一夜を最後に、私、鳴海メイは人ではなくなった。
悪を滅する者。
--対魔忍はこうして誕生した。
最初のコメントを投稿しよう!