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 虚ろな瞳が映すのは醜い世界。  陵辱後の視界は紅く、血と腐臭でなぞられた四角い部屋がぼんやりと視えてくる。 「おい、女。気分はどうだ?」  応える気もない。私が何も言わずにいると巨体のオーガと呼ばれる醜い化け物は笑った。 「そうだろうよ。このオーガ様に犯されたやつは皆、こうなるんだ」  オーガは紅い液体の入った瓶を持ってくると、私に口移しでその液体を飲ませた。私がえずいているとオーガは笑った。汚い笑い方だった。 「お前は確かに上者だ。しかしだ。足らんのだ。それは何か。強さだ。俺は強い女が大好きだ。俺を殺せるほどの女。そんな女と殺し合いをしたいもんだ」  オーガは私の耳に口を寄せた。 「俺を殺してくれ」  小声でそう言う。私がオーガを睨むと、彼は小さく笑った。 「この液体がお前の肉体を超人と呼べるほどに、強化してくれる。それに俺の子種もある。そうだ。お前に何度も何度も注入した子種だ。オーガの子種は市場でも高く売られているほどだ」  私が無言でいるとオーガは続けた。 「疲れたんだ。女を犯し続ける生活にな」  その瞳はわずかに人間味を帯びた色をした。 「俺は他のオーガと違って半分、人の血が入っている。だから自我があるのさ。そいつが邪魔をするんだ。俺の、オーガとしての本能をな。まあ、理性というやつだな」 「俺を殺してくれ」  寂しそうな声だった。 「なぜ、私に言う?」 「惚れたからだ」 「私のどこに惚れる要素があった? お前にとってはただの性処理道具だろう?」 「嗅覚だな。ピンと来ないかもしれないが、お前の匂いに惚れたんだ。体臭のことじゃねーぞ? 人間の、血というか、遺伝子に潜り込んだ獣の匂いというか。そういうのを感じたんだ」 「全然、分からん」 「分からなくても構わない。ただ、俺がお前に惚れた。その事実は変わらない」  オーガは腰巻きを身につけると、ベッドに横たわっている私に向けて、頭を下げた。 「俺を殺してくれ」  そういうとオーガは部屋を出た。 「お前をいつまでも待っている」  去り際にそんなことを言った。  この一夜を最後に、私、鳴海(なるみ)メイは人ではなくなった。  悪を滅する者。  --対魔忍はこうして誕生した。
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