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第22話 交わし合う二人の想い
ほのかに室内を照らす明かりの中で、湿り気を帯びた息づかいが響き、口づけの合間に唾液が舌先で交わる音が聞こえる。
だがそれよりもずっと、くちくちと水音を立てながら、後孔でオイルがかき混ぜられる音にリューウェイクは身を震わせた。
長い指が体内をなぞり、少しずつ後孔のフチを拡げようとするたび、力んだリューウェイクの足がシーツの上を滑る。
転げないようにと、後ろからリューウェイクの体を抱きかかえる雪兎。
湧き上がる快感をこらえきれず、ぼろぼろと涙をこぼすリューウェイクをなだめ、何度も優しく口づけてくれる。
指先で顎を引き寄せられ、与えられる口づけは少し苦しい体勢だ。
それでも流れ込んでくる雪兎の魔力が感じられるようになり、リューウェイクはますます気持ち良さが込み上がる。
「リュイ、大丈夫か? 気持ち悪くない?」
「ぁっ、そこ」
「ん? ここか?」
下穿きを脱ぎ去り、剥き出しになったリューウェイクの脚。
しなやかなそれを無防備に開き、背後から伸ばされた雪兎の手を受け入れるリューウェイクは、覗き込む彼の瞳に縋る目を向ける。
そこに含まれた願望を読み解いた雪兎は、さらにもう一本指を後孔へ潜り込ませ、敏感な場所を指先で挟むようにやんわりと撫で上げた。
「あぁっ」
甘く腰が砕けてしまいそうな気持ち良さに、リューウェイクは短い悲鳴を上げ快感に震える。
すりすりと何度もそこを撫でられれば、無意識に腰が揺れてしまい、目を細めた雪兎がたまらないとばかりにこめかみに口づけてきた。
「んぁっ……ユキさん、ユ、キさんっ」
「よしよし、達してばっかりで辛いな。でもあとちょっとだけ我慢だ。さすがに初めてですぐは入らない」
「あっ、ぁ、ダメっ、ユキさんっ、また」
与えられるのは、口づけと後孔への刺激だけだというのに、互いの魔力が交わり始めると急激に快感が高まってきた。
元より媚薬なのだから、そういった気分を高める薬効なのだと、わかってはいても強烈な快楽に翻弄される。
じわじわと、留まることを知らない熱に苛まれるのも辛いが、これはこれで辛いものがある。
リューウェイクが耐えていられるのは、触れる相手が雪兎だからこそだ。
「早く、ユキさん早く! 中、中にもっと欲しいっ」
「……ああ、わかってる。早く魔力で中和してほしいんだよな。しかし、言い方」
どこか呆れた口調の雪兎だが、声に少しずつ余裕がなくなってきている。
後ろから抱きしめられているので、リューウェイクの臀部の辺りで下穿きを押し上げ、昂ぶっている彼の熱も感じられた。
ここまで自制心が強い男性は珍しく、大抵の男は相手の媚薬で蕩けた姿態を前にして、即行で相手を獣のように襲い貪っているだろう。
「ユキさん、もういい。いいから早く挿れてっ、出して!」
「無茶振りだが、可愛くてどうしようもないな」
「んっ」
ふいにうなじにきつく吸い付かれて、ゾクゾクとした快感と共にリューウェイクの肌がざわめいた。
チュッ、と何度も音を立てて首に口づけを落とした雪兎は、細く息を吐いてから、リューウェイクの体を寝台の上へうつ伏せに下ろす。
ひんやりとしたシーツがはだけた胸元と頬に触れ、リューウェイクは火照りを冷まそうと、思わずすり寄るように顔を寄せた。
「無理だと思ったら、蹴り飛ばしていい」
「ユキさん?」
背後で衣擦れの音が聞こえるが、振り向こうと体を起こすその前に、雪兎に腰を引き寄せられてしまった。
交尾をする獣の如く腰を高く上げる格好で、気づいたリューウェイクの顔は高熱が出た時みたいに火照って、とっさにシーツに押しつけて悶える。
ゆるりと腰を撫でる雪兎の手に胸の音は速まるばかりで、臀部の割れ目にぬめり帯びた熱い昂ぶりが擦りつけられれば、それだけで感じた。
さらには尻たぶを掴み、後孔にぬめる先端を擦りつけられて、リューウェイクの呼気は興奮と共に乱れる。
「リュイ、好きだ」
「……っ」
無意識にこぼれたのだろう、雪兎の熱のこもった声はリューウェイクの心を鷲掴みする。
ぎゅっとシーツを握りしめて待てば、指とは比べようがない質量が後孔へ押し込まれた。
ゆっくり、慎重に狭い孔を押し拡げてくる雪兎のモノを、早く受け入れたくてリューウェイクは必死で息を逃す。
浅い場所で確かめるように行き来してから、次第に奥へと押し入る。
中程まで来るともう体が疼き出して、リューウェイクはうわごとのように雪兎の名を呼んでしまった。
「はっ……さすがにキツいな。リュイ、痛くないか?」
リューウェイクの顔を覗き込み、覆い被さってくる雪兎がうなじに口づけをくれる。
さらには体から力が抜けるのを見計らい、先ほどより早い抽挿を繰り返す。
しっかりと慣らされたそこはオイルが垂れ落ちるほどで、雪兎が腰を揺らすたびに、ぬちゃぬちゃと粘るいやらしい音が響いた。
「ん、良さそうだな。媚薬が効いてるんだな。リュイのためには早く出すべきなんだろうが、これは俺の理性が試されるな」
馴染んでから体勢を変え、向かい合わせで繋がると、覚えたての快楽にすっかりリューウェイクは蕩けきっていた。
繕う余裕もなく、緩んで締まらない表情だが、雪兎は愛おしそうに笑んで、リューウェイクの目尻に口づけてくれる。
「あっ、あぁっ」
ぐりぐりと中にある快感を呼ぶ、しこりのようなものを昂ぶりの先端で押し潰され、リューウェイクはたまらず甲高い声を上げた。
続けざまに体を揺さぶられると、甘い嬌声を止められなくなる。
「ユキさんっ、もっと! あっ、ぁっ……んっ」
「気持ちいいのか?」
「いいっ、気持ちいぃ……ユキさん、ぁぁあっ、もっと欲しい!」
目の前で己の快感をこらえ、顔をしかめる雪兎の額や首筋からこぼれた汗が、肌に滴る様はひどく興奮させられた。
シーツをきつく掴み、淫らに腰をくねらせるリューウェイクは、彼が欲しくてたまらず、脚を目の前の体に絡めた。
「くっ、リュイ――」
リューウェイクの仕草に煽られたのか、腰の動きを早めた雪兎が腕を掴んでくる。
そのまま強引に体を引き起こされたかと思えば、今度は噛みつく勢いで口を塞がれた。
快楽を得ようとする雪兎の動きに、リューウェイクは追い詰められ、目の前で火花が散るような錯覚と共に、ついには彼の昂ぶりだけで果てる。
身体の奥に熱く心地いい雪兎の魔力を感じ、リューウェイクはぎゅっと彼の背中を強く抱きしめた。
淡い日の光を感じ、深い眠りから意識が浮上したリューウェイクは、もぞりと触り心地の良いシーツの上で寝返りを打つ。
するとすぐ傍から、柔らかな香りと温かなぬくもりを感じ、誘われるようにすり寄ってしまった。
「リュイ、目が覚めたか?」
無意識のうちに、目の前に感じたぬくもりに額を擦りつけていると、忍び笑いと共に髪を梳き撫でられる。
ぼんやりとした思考のまま瞬きをして、聞き心地のいい声の主を見上げたら、鼻先にチュッと音を立てて口づけられた。
「んっ……ユキ、さん?」
「おはよう。体は大丈夫か?」
寝ぼけ眼で頷くと、腰に腕を回されてさらに引き寄せられる。
昨夜は一度二人で果てたあとも、媚薬が抜けきるまで何度も抱き合った。
リューウェイクは散々啼かされ何度も果てて、最後の辺りには雪兎にしがみつくしかできなかったほどだ。
ただ言えるのは、最後の最後まで雪兎はリューウェイクの体に気遣い、決して暴走はしなかった。
「ユキさんは大人だな」
「ん? なにがだ?」
「あ、声に出てた」
(ユキさんの歳なら、これまで何度も経験があって当然だ。ここでだって僕の年齢で経験がないほうが珍しいくらいなんだから)
早い者は十七歳前後に初経験を済ませてしまうため、平民ともなればもっと低年齢層でもありえる。
雪兎の世界でもこちらと変わらず学生時代に、なんてこともあるに違いない。
どこから見てもいい男なのだから、雪兎は恋人に困るなどなかったのではないか。
(相手の経験数を気にしちゃダメだ。ユキさんの歳で、この見た目で、経験が両手で余るとか絶対ない)
「どうしたリュイ? なにか言いたそうな顔をしてる」
「ううん。大したことじゃない」
もやもやとしたものが一瞬、リューウェイクの心に浮かんだが、自分の寝台で共に横たわる雪兎の姿がやけに感慨深い。
そのため数秒後には「大事なのはいまだ」と、相手の数などどうでも良くなった。
枕に散った、雪兎の艶やかな黒髪に手を伸ばし、リューウェイクはそっと一房に触れた。
行為の最中も触れたはずだけれど、改めて触れてみると柔らかくて、指の隙間をさらりとこぼれ落ちる。
悪戯に髪の毛をいじるリューウェイクを、雪兎は黙ったまま、穏やかな光を帯びた眼差しで見つめていた。
「リュイ」
「うん? なに?」
「俺はリュイを諦めたくない。もし離れる結果になるとしても、いま一緒にいる時間を少しも無駄にしたくない。ただの思い出は嫌だ。最後の瞬間まで、リュイを口説かせてくれ」
「……あ、えっと。ユキさんは、向こうに大事な人は」
「いるわけないだろう。いるのに告白するなんて、俺はそんなクズじゃない」
「そ、っか。うん。でも僕なんか……んっ」
真剣な眼差しと言葉にうろたえた、リューウェイクが後ろ向きな発言をしかけた瞬間、唇を奪われて息を絡め取るほどの口づけをされた。
のし掛かってきた雪兎に寝台へ押しつけられ、まともな思考ができなくなるほど口の中を貪られる。
ようやく離れた頃にはすっかり息が上がって、唇が腫れ上がった気がした。
「リュイ、君はなんかと言っていい人じゃない。こんな理不尽がまかり通る場所で、決して折れることなくまっすぐと立ち続けた。いかなる状況でも曲がらず、負の感情に染まったり負けたりしない清廉な君を、たとえリュイでも貶めるのは許さない」
「……っ」
真上からまっすぐに視線を向けてくる――愛おしい人。
誰に言われるよりも、雪兎に自身を認められた事実が、リューウェイクにはたまらなく嬉しかった。
喉が詰まり、極まった感情に揺さぶられて、リューウェイクの目尻から涙がこぼれ落ちる。
「リュイ、俺は君が好きだ。出会った時、思わず子供だなんて言ってしまった自分が恥ずかしい。君はどんな人よりも大人だった。だが叶うなら俺の傍にいれば年相応のリュイでいられる、君を癒やせる存在になりたい」
「ユキさんっ」
「俺は君を得るためなら、女神だって脅迫してみせる」
(どうしたらいいのだろう。ユキさんを失って生きていくなんて、いまさら無理だ。だけどこの世界で関わった人たちを見捨ててしまっていいのか)
慈しみを込めた両腕に、全身を包み込むように抱きしめられて、リューウェイクはたまらず子供みたいに雪兎の背中にしがみついた。
こらえもせず、声を上げて泣いたのは初めてだった。
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