3.この腕で

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3.この腕で

ルーチェとスクートムはロジェと別れ、村を出て次の町を目指した。町の郵便局へ寄り、枢機卿宛の手紙をしたためて事の顛末(てんまつ)を報告するのだ。 「やっぱり納得いかない? あの偽物の短剣を不問にすること」 山間の巡礼路を歩きながら、ルーチェは相棒の顔色をうかがう。彼はじとりとルーチェを見下ろした。 「納得いきません」 「君は本当に真面目だなあ。たぶん、あの短剣のことは教皇庁もすでに把握してるよ。あれだけ巡礼者が訪ねていれば噂になるだろ。それでも見て見ぬふりなのは何故だと思う?」 「それは……あの短剣が人々に希望を与えているから、でしょうか」 「うん。だから私たちも目をつぶろう。それに、あの短剣がある限り、コンフォアが忘れ去られることはない。私はその方がいいな」 「聖女コンフォアの伝承は子供だって知ってます。忘れ去られるなんて」 「今はそうだ。でも500年後、1000年後は?」 スクートムは「そんな先のこと知りませんよ」とあしらおうとして、口を閉ざした。ルーチェが真剣な瞳で道の先を見ていたのだ。
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