3.この腕で

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「聖女コンフォアの伝承を遠い未来に残すために、偽物の短剣の存在を黙認したい、そういうことですね? そんなに彼女がお好きですか?」 スクートムは諦めたような口調で問う。ルーチェはしばし沈黙し、言葉を探した。何をどう言えば分かってもらえるだろう。 「……コンフォアが生まれた時、私にはまだ自我がなかったけど、生後まもない彼女のゆりかごの中に置かれていた記憶はあるんだ。彼女の故郷は刀鍛冶(かたなかじ)で有名でね、生まれた子に短剣を贈る風習があったらしい」 ルーチェが自我に目覚めて人の姿に化けるようになったのは30年ほど前のことだ。それ以前のことは記憶だけ保持している。 「彼女が生まれてから死ぬまで、私は彼女の人生のすべてを見ていた。彼女以上に、彼女のことを知っていた」 聖女の短剣の独語めいた話を、スクートムは黙って聞いている。 「神々に選ばれた時、彼女はとても困惑していた。小さな子供を置いて命懸けの旅に出る時は心を引き裂かれそうだった。竜を目の当たりにした時は死を覚悟した」 「それでも、倒したんですよね、竜を」
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