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彼女は壁際の暗がりにひっそりと立ち、値踏みするような眼差しで短剣を見つめ、己にだけ聞こえる声で「ふうん」と言った。片頬を上げて、やや皮肉っぽく微笑むと、くるりと身体の向きを変えて教会の出口へ向かう。
「あの、司祭様」
ひざまずく巡礼者の中から、遠慮がちに申し出る青年の声が聞こえた。生真面目そうな声だ。
「僕は以前、別の村の教会でも聖女コンフォアの短剣を見ました。どちらが本物なのでしょう?」
出口へ向かいながら、少女は肩越しに祭壇へ目をやった。老司祭が何と答えるか、気になったのだ。
「こちらが本物に決まっています。さあ、ロウソクに火を灯し、頭の中を空っぽにして、目を閉じて祈りなさい」
老司祭はいかめしい顔で言いながら、“銅貨1枚”と書かれた木箱を指で叩く。木箱には細く短いロウソクが詰まっていた。
少女は木製の重たいドアを押し開け、教会を出た。明るい日差しに灰色の目を細め、旅の荷物を背負い直す。爽やかな秋の風に巡礼装束のすそや後頭部でまとめた長い黒髪をあおられる。
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